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醒めない夢

オリジナルBL小説ブログ

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<連載中>
遠回りの恋 -エブリスタVer-
遠回りの恋 -fujossy Ver-
 
(2017/5/6〜)
高校三年生の奏多は、二つ後輩の悠真に初対面で告白される。
どんなに邪険にしても健気に懐く悠真が気になりはしても、
奏多はある男性に決して叶わぬ恋心を抱いていた――。
雨宿りの恋、スピンオフ。

過去作品を書き直してエブリスタとfujossyで連載中です。
どちらも同じ内容なので、読みやすい媒体でお読み下さい♪

エブリスタVerに、サポーター特典の短編小説を載せました。
「残酷な男」尚憲x奏多。居酒屋デートの話。スター15Pで購読可能♪
良かったら、読んでくださ〜い


上記を含む全ての作品は、目次からご覧いただけます。
【総合目次】

<活動場所>
このブログをメインに、以下の小説投稿サイトにいくつかの作品を置いています。
・エブリスタ
・ムーンライトノベルズ
・fujossy


<お願い事項>
このブログでは18歳以上(高校生含まず)を対象とした男性同士の恋愛小説を掲載しています。
年齢に満たない方、物語の設定や内容に嫌悪や疑念を抱かれる方は、閲覧をご遠慮下さい。
著作権は放棄しておりませんので、無断複製、転載は固くお断りします。
誹謗中傷のコメントは管理人の判断で削除をし、一切反応いたしかねますことをご了承願います。


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インビジブル 17 (最終話)

 和也は保安検査場を通り抜けると、ラウンジに向かった。
 そこに足を踏み入れ、後ろの自動ドアが閉まると、外部の喧騒が嘘のような静けさだ。
 搭乗までの時間をゆったりと過ごす乗客の姿がちらほら見受けられる。
 空席を探すためざっと辺りを見渡して、ある人物を見つけると、和也は迷いなくそちらに向かった。 
 その人は窓側のカウンター席に座っていた。
 窓の向こうにはちょうど離陸するタイミングの飛行機があって、それを見るともなしに眺めているようだ。
 声をかけようとして、先に振り返ったのは、芹野だった。
 和也と視線が合うと、悪巧みが成功したような、勝ち誇った笑みを浮かべた。
 はあっと溜息を一つ吐いて、和也は彼の隣の空席に腰を下ろした。

「俺からのクリスマスプレゼント、ちゃんとおまえの手元に届いたみたいだな」
「芹野、おまえ……見てたのか? ちょっと悪戯が過ぎやしないか?」
「ふふっ、ちゃんと届いて良かった。あの子が来るかどうか、ちょっと自信がなかったんだよねえ」

 芹野は綺麗な笑みを浮かべるばかりで、和也の咎めに反省の色一つ見せない。

「まあいい。聖人に会わせてくれたことには、礼を言う。ありがとう」
「あの子、こてんぱんにフッてあげたのか?」
「……フラレたのは俺の方だが、それなりにけじめはつけてきたよ。それに彼の恋人ともサプライズでご対面してきた」
「わお。そりゃ、すごい。ね、そいつと殴り合ったりしたわけ? 聖人を返せ、とか言ったりしてさ」

 芹野はふざけてシャドーボクシングの真似をした。
 どうやら修羅場を期待しているらしい。
 他人の失恋をここまで茶化されても、和也に怒りはなかった。

「期待に応えられなくて申し訳ないな」
「なーんだ、つまらないの。なあ、聖人の今カレってどんな奴? 俺、そいつの顔、知らないんだよ」
「超絶にいい男だ。あれは黙ってても女が寄ってくる人種だ」
「あらら。聖人、そんなのと付き合って大丈夫なのかな。いつかそいつ女に走って、ポイ捨てされちゃうんじゃない?」
「その心配はなさそうだ。どちらかというと、そいつの方が聖人にベタ惚れしてる感じだったから安心している」
「へえ、やっぱり聖人ってすごいよねえ。生粋のノンケをころっと落としちゃうんだから。それにしても……」

 芹野は思い出したようにぷっと吹いた。

「なんだ?」
「広瀬の感想、ちょっと変だよね。心配ない、とか、安心だ、とか。恋人を取られた男の言い分じゃないよ。箱入り娘を嫁に出す父親みたいだ」
「そう言えば……あの男にもそれらしきことを言われたな……」
「やっぱり!」

 ヤバい、ウケる、と芹野は涙を流して大喜びしている。

「そんなつもりはないんだが……」

 和也は少々落ち込んだ。
 聖人の今後が気になるのは確かだけれども、決して親のような気持ちからではない。
 自分に父性はないと断言できる。
 莉絵子の子どもと自分の血縁関係がはっきりしない時点でさえも、相当忌み嫌っていたのだから。

「あー、ごめんごめん。笑いすぎちゃった」

 芹野はようやく笑いが一段落ついていたけれど、それでもくすくす笑いながら、眦の涙を指先で拭っている。

「聖人って本当にふらふらしてるから、広瀬が心配する気持ちはよく分かる。まあ、あの不安定さがあの子の魅力でもあるんだけどけどね。今の彼氏ともそう遠くない将来別れると思うな。俺が保証する」
「そんなのは要らん。それに聖人を馬鹿にするな。いくらおまえでも許さんぞ」
「オトーサン、怒らないで。おまえだって、それを狙ってるくせに」

 和也は彼の問いかけに答えなかった。
 年若いカップルの破局を待っているなんて、口が裂けても言えやしない。
 しかし和也は密かにそこに賭けた。
 何年かかるか分からない、勝ち目のないギャンブル。
 賭けるのは己の恋情のみ。
 だから例え負けても、誰にも迷惑はかからない。
 客観的にみても、往生際の悪さに狂気を感じる。
 和也はこの異常な執着を諦めて受け入れていた。
 ずっと以前、聖人を抱いた時、何気なく彼に告げた言葉を思い出した。

『俺は君を一生ストーキングするつもりだ。だから、君は俺から決して逃げられない』

 あの時は聖人と添い遂げるつもりでこの台詞をはいたけれど、今は彼を遠くから監視する立場になってしまった。

「芹野、おまえは、こっちと東京を行ったり来たりするんだったよな?」

 東京では、和也は芹野と同居する。
 新しい勤務先の住所を伝えて、家の選択は彼に任せきりだ。
 荷物は事前に教えられた宛先に送った。
 芹野らしくセレブレティな界隈であることには間違いなかった。
 今日の移動日は、わざわざ芹野が広瀬の予定に合わせて、ラウンジで待ち合わせしていた。

「……監視役とかやだからね」

 さっそく和也の意図を察したらしく、芹野が唇を尖らせた。

「でも、おまえ、そういうの嫌いじゃないだろう?」
「まあ、そうだけども……」
「俺はもう聖人に寄り添えない。だから芹野が彼を今まで通り見守ってやってくれればありがたい」
「……それくらいなら、してやってもいいけどさあ」

 なんだかんだと芹野は面倒見のよい性格だ。

「芹野、恩に着る」

 その時、搭乗案内を知らせるデジタル表示が切り替わって、二人の視線がそちらに向かった。
 和也らが乗る飛行機の搭乗手続きが開始されたようだった。

「行くか」
「ああ」

 二人はどちらともなくシートから立ち上がり、連れ立ってラウンジを後にした。
 旅行客の流れに乗って、搭乗ゲートに向かった。

「いよいよ広瀬と同棲かあ。すっごい楽しみなんだけど」
「同棲じゃない。ルームシェアだ。くれぐれも恋人には誤解がないように伝えておいてくれよ。色恋沙汰でもめるのはもう勘弁してくれ」

 彼の恋人の正体は、未だに教えられていない。

「まあまあ、そこら辺も含めて楽しもうじゃないか」
「はあっ……おまえは本当にトラブルメーカーだな」

 長身の色男二人がおしゃべりを楽しみながら颯爽と歩く姿は、女性客の視線を惹き付けたまま、搭乗ゲートに消えていった。



【the end】




最後まで読んでいただいてありがとうございました。
「夜香蘭の雫」214話から最終話までの
和也サイドエピソードをお届けしました。

芹野のなぐさめで失恋から立ち直った和也。
ニューカプ登場に驚かれたのではないでしょうか。
この意外な組み合わせは、今、密かなお気に入りです。

そして和也はフラレても聖人一筋。
ちょっとキモいストーカー体質はイケメン属性で相殺です。

次の物語は、新作か、既存作品の続編かは、時期も含めて未定です。



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インビジブル 16

 店を出て、強い視線にすぐに気付いた。
 聖人の恋人、浜田伊織が少し離れたところからこちらを睨んでいた。
 彼に背を向けている聖人は、恋人の苦々しい表情に気付いていない。
 彼は嫉妬と遠慮が混じった、気の毒なほど切ない様子だった。
 和也は強烈なシンパシーを彼に感じた。
 聖人に魅入られた男は、常に不安を感じずにはいられなくなる。
 互いに愛し合っているはずなのに、聖人は、気まぐれにふいっといなくなってしまいそうなのだ。
 しかしそれは彼を愛してしまった者の、受け入れなければならない宿命であり、背負っていくべき覚悟だ。

「少し彼と話をさせてくれないか」

 聖人の回答を待たずに、和也は伊織に近付いた。
 彼と間近に対面するのはこれが二度目だ。
 聖人の勤める喫茶店で鉢合わせしたのが初対面だった。
 あの時も思ったけれど、目の前にいる彼はとても見目の良い男だ。
 派手で女性にモテそうだけれども、扶養者がいるためか、責任感のある頼もしい面構えだ。

「やあ、ひさしぶりだね」

 和也は鷹揚に話しかけた。
 伊織は憮然と「どうも」とだけ答えた。

「せっかくのクリスマスイブに、申し訳ない」
「あいつがどうしてもあんたに会ってさよならしたいっていうからな。仕方がねえよ」

 和也は聖人に相当甘い。
 しかし伊織も恋人の我儘には弱いようだ。
 元カレに会いたいという願いを叶えるなんて、お人好しにも程がある。

「あんた、東京に行くんだってな」
「傷心を癒やすために環境を変えたくてね」
「はっ、あんたがそんな殊勝なタマかよ。どうせ聖人のこと、まだ諦めたわけじゃねえんだろ」

 彼は和也の気持ちを見抜いていた。
 しかしそれを認めるつもりはなかった。

「聖人とはきちんと別れたよ。安心して聖人と付き合ってくれてかまわない」
「なんであんたにいちいち許可もらわなきゃなんねえんだよ。まだ聖人の保護者ヅラする気か?」
「彼は俺じゃなくて君を選んだ。君はもっと堂々としてもいいんじゃないか?」
「てめえ……」

 未だ聖人の気持ちを信じきれていないのか。
 図星をさされた様子で、伊織は乱暴な口調で詰め寄ろうとした。
 聖人に心配そうに見られているのを意識して、彼はぐっとそれを堪えていた。

「あの子を大事にしてやってくれ。本当は俺がそうしてやりたかったんだがね」

 この言葉は和也の本音だ。
 ずっと聖人の側にいたかった。
 しかしそれはもう叶わない。

「あんたに言われるまでもねえし。あいつは俺がずっと大事にする。中坊んときからあいつだけを好きだったんだ。未練たらしく奪いにきても絶対にやらねえから。いいな」

 彼は宣戦布告のような、頼もしい答えをくれた。
 聖人の幸せは彼に託しておけば大丈夫だ。

「そろそろ失礼するよ。最後にもう少しだけ彼を貸してくれ」

 当然返事をしない伊織を相手にしないで、和也は聖人の元に戻った。

「あ、あの、一体何を……?」

 聖人はいろいろと聞きたそうではあるが「まあ、いろいろとね」と和也はごまかした。
 伊織が会話の内容を告げるかもしれないけれど支障はない。 
 それに彼は聖人に何も話さないだろうと確信があった。

「すまないが搭乗時刻までもう時間がないんだ。聖人」

 和也はしんみりした別れの挨拶をかわすつもりはなかった。
 あっさりと差し出した和也の手に、おずおずと聖人が触れた。
 その滑らかな手触りと温もりに、彼を引き寄せて抱きしめたい衝動に再び襲われる。
 それを堪えて、すぐに手を離した。
 これ以上握っていたら、きっと彼を攫ってしまう。

「それじゃあ、元気で」

 あえて、さよなら、と言わなかった。
 聖人からもその言葉を聞きたくなくて、すぐに踵を返した。
 彼のか細い声が背後から聞こえた気がした。
 だが和也は未練たらしく後ろを振り返ることは、なかった。


次、最終話です。


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インビジブル 15

 残された時間はわずかだ。
 和也は本題に入った。

「俺はこの数ヶ月、なぜ君とこんな結果になったのだろうかと、幾度となく冷静に考えて、考え抜いた。そしてその理由が、俺が至らないからだという結論にどうしても行き着いてしまうんだ」

 彼との別離は、和也の不埒な過去が原因だと、もう何度も猛省した。
 その一方で、聖人の二心も一因だと今では認めている。
 その点で彼をかばうつもりはなかった。
 浜田伊織と再会した時から、聖人の心は和也と彼との間でゆらゆら揺れていた。
 それにすぐに気付いていたのに、和也はそこから目を逸していた。
 相思相愛な現状にあぐらをかいていた和也の失態だ。
 安穏とかまえているうちに、二人の歩む道はいつの間にか離れていた。
 だが聖人は心変わりしたのではない。
 彼は同時に二人の男性を好きになっただけだ。
 当然和也にだって聖人を独り占めしたい気持ちはある。
 しかし彼を失うことと天秤にかけるなら、彼の浮気を許す度量の大きさは持ち合わせているつもりだ。
 だが真面目な聖人自身がそれを許さないのだ。
 和也は浮気の件で彼を責めるつもりはなかった。
 悪いのは全て自分で、聖人に非はないのだと、彼を優しく諭した。
 すると、聖人は黒目がちの瞳を大きく揺らした。
 どうして強く詰ってくれないの?
 その眼差しは、口よりも雄弁に、彼の絶望を物語っていた。
 聖人は和也からの罰を望んでいるのだ。
 それを受けることで彼の罪はようやく許されて、和也への思いを断ち切るきっかけとなるのだろう。

「君の思いは君のだけものだ。俺はそこまで干渉しない。よく考えてごらん。君は俺と別れてから、浜田くんと付き合い始めた。常識的に考えても、それは裏切りにも浮気にも該当しない。君は誰もが持つ幸せになる権利を執行したにすぎない。誰もそれを咎めることは出来ない。例え俺でもだ」

 聖人の浮気など正直どうでもいいことだった。
 しかしそれを今の彼に説うても、きっと聞く耳を持たない。
 彼の頑なな性格はよく分かっているつもりだ。
 和也は二つのことを成し遂げようと考えていた。
 一つは彼の苦しみを取り除くこと。
 もう一つは彼に愛され続けること。

「俺は君との別れを既に納得している。君も俺とのことを思い出にしてもいい時期じゃないだろうか」

 嘘と真実が入り混じった言葉だ。
 彼と別れたくない。
 彼を思い出にしたくない。
 だが罪悪という海で溺れ喘ぐ聖人を救えるのは、和也しかいないのだ。
 聖人は和也をぼうっと見つめていた。
 この言葉の意味を理解するのに少し時間がかかっているようだった。
 しばらくしてようやく腑に落ちたのか、ずっと強張っていた表情にじわじわと安堵の笑みが浮かんだ。
 差し伸べた和也の救援の手を、彼はしっかりと掴んでくれたのが分かった。
 彼は和也への罪悪感から解放されたのだ。

「和也は……僕とのことを……後悔……していませんか?」

 聖人と出会わなければ、流されるままに誰かと結婚し、平和な生活に飽きて、浮気を繰り返し、家庭は破滅して……。
 きっと悲惨な人生を送っていた。
 彼との恋愛は、和也の素晴らしい財産だ。
 これから生きていく糧となることは間違いない。
 それを彼に正直に伝えた。

「僕は……和也を愛して、和也に愛されて、すごく、すごく、幸せでした。今まで本当に……ありがとうございました……」

 聖人は憑き物が落ちたように、本当にすっきりとした表情だった。
 さみしくはあるが、和也はそれでいいと思った。
 みっともなく彼に縋らず、綺麗な存在として彼の中に残ることを、和也は選んだ。
 聖人はまだ和也を愛している。
 勘違いではなく、和也の確信だ。
 和也は聖人に未練を残していない体を装って、彼から離れる。
 それで彼の罪の意識が消えるのであれば、和也は喜んで彼から身を引こう。
 これから幾年月、彼のいない日々を過ごすのか。
 それを考えると、正直怖くなる。
 今からすることは無謀な賭けだ。
 二度と聖人をこの手に取り戻せないかもしれない。
 しかし先の見えない辛苦の道を歩くのは、己のみでいい。
 聖人の未来には、安寧と幸福しかあってほしくない。
 それを与えるのが自分でなくてもかまわないから。


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インビジブル 14

 過去、何度もこの指で漉いた、絹の手触りの髪。
 先月盗み見た時と同様、それはやはり清潔に短いままだった。
 その分、形のよい耳と綺麗な襟足が露わになっていて、そこに唇を寄せたくてたまらなくなる。
 彼が羽織っている暖かそうな紺色のピーコートは、和也の見知らぬものだ。
 その事実に、聖人がすでに和也の手から離れたのだと、痛感させられる。
 彼の美貌に驚き、通り過ぎた後に、二度見する人までいる。
 それなのに聖人は自分の容貌に無頓着な質で、不躾な注目を全く気に留めていない。
 相変わらずだな、と和也は彼がほほえましくて、愛おしげな微笑を浮かべた。

「聖人」

 彼に再び会った時、自分がどんな風に行動するか、正直想像できなかった。
 しかし意外と冷静でいられたし、迷いなく彼に声をかけていた。
 そこまで大きな声ではなかった。
 喧騒にかき消されて、この声は届かないと思っていた。
 声を発した途端、聖人は弾かれたように和也に視線を向けた。
 真正面から、そしてこんな間近に彼を見るのは、今年の夏、彼に直接別れを告げられて以来だった。
 黒目がちの瞳。色白の肌。ふっくらとした小さな赤い唇。
 彼の全てが愛おしい。
 和也の心は感動に打ち震えた。
 聖人の存在は、神が地上にもたらした至上の奇跡だ。
 このまま美しい彼の足元にひれ伏し、靴に口づけしたい。
 別れてもなお、和也は彼の虜なのだと、痛切に感じた。

「やっぱり聖人だったか」

 彼をここに呼び寄せたのは、芹野の仕業だった。
 おせっかいな男だと内心嘆息しつつ、さりげない心遣いに感謝した。
 友人の芹野を抱いて、失恋の痛みは和らいだけれども、聖人への恋情はそのままだ。
 聖人を目の前にして、このまま彼を抱きしめ攫ってしまいたい衝動にかられる。
 しかし彼の表情はとても穏やかだ。
 もし和也が復縁を迫っても、やんわりと拒絶するだろうと容易に想像出来た。
 聖人は和也と本当に別れるために、ここに来ているのだから。



 立ち話では落ち着かないため、セキュリティゲート近くにある飲食店に聖人を誘った。
 彼と二人きりのシチュエーションを和也は喜んでいる一方、聖人は緊張しているのか落ち着かない様子だ。
 コーヒーが届くのを待つ間、和也は不安げな聖人をゆったりと観察した。
 このまま彼とクリスマスイブを過ごしたい。
 そんな見当外れなことを考えてしまうけれど、あいにく和也に残された時間は残りわずかだ。

「君に会えるとは思っていなかったな」

 聖人は口下手だ。
 和也も饒舌ではないけれど、そわそわしている彼がかわいそうで、助け舟を出すつもりで会話を切り出した。
 彼の容姿をそれとなく褒めると、たったそれだけのことで彼はぽうっと頬を染めた。
 こんな初心な態度が和也にはたまらなく愛おしい。
 ピンクの頬を撫でたくて、つい指先が伸びそうになる。
 聖人は敬語を交えることで、必死に和也との距離を取ろうしていた。
 それが少し切ない反面、彼の健気な努力がいじらしくなる。
 まるで出会った頃の、遠慮がちな彼のようだ。
 芹野から聞いていたとおり、聖人は和也から渡されたものを返したくてうずうずしていた。
 しかし和也はそれをすげなくつっぱねた。
 迷惑なら処分しても別にかまわなかった。
 それを告げると「質にいれるなんて、そんなこと、出来るわけないじゃないですか!」と彼は男らしく断言した。
 彼のそんな誠実さも、和也が好きなところだ。

「それなら、俺と付き合っていた記念に持っていてくれると、うれしいんだがな」

 少しだけ嫌味が込められていたかもしれない。
 聖人はさっと表情をこわばらせた。
 和也はそんな彼にぞくりと欲情しそうになった。
 付き合っている頃からそうだった。
 真綿に包むように甘やかしたい一方で、彼を泣かせ、その泣き顔を愛でたいと願う自分がいるのだ。

「あの……っ、どうして……会社を辞めたんですか?」

 聖人は一大決心したかのように、転職の件を尋ねてきた。
 どうしてもその真相を知りたかったのだろう。
 今回の退職と転職は、聖人との一連の出来事と無関係ではない。
 しかしあくまでも和也の生き方の問題だった。
 聖人は心底和也の今後を案じてくれていると、ひしひしと肌に感じる。
 本当に心優しい男なのだ。
 だからこそ、莉絵子や和也の母親に同情しすぎて、自分の幸せを二の次にする。
 そんな不器用な生き方しかできない聖人。
 ますますそんな彼を愛おしく慕うばかりだ。 
 彼はこの件を追求したそうだったけれども、和也にとって転職は瑣末な問題で、この話題にこれ以上時間を割きたくなかった。

「仕事の話はここまでだ。これは俺のプライベートの問題であって、君にもう関係ないことだ」

 容赦なく打ち切ると、聖人は綺麗な顔をくしゃりと歪めた。


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