醒めない夢

夜香蘭の雫 あらすじと登場人物

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恋人の和也と幸せな日々を送る聖人。そんな聖人の前に、初恋の人、伊織が突然現れて……。全244話。完結。(2016/5/8〜2017/4/22)...

夜香蘭の雫 1

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<a-side>「ここに越して来ないか? 聖人」 聖人は和也の突然の提案に驚いて顔を上げた。「それって……」「一緒に暮らそう」 クリスマスが終わり、世間は既に年の瀬だ。外は冷たい風が吹いているが、二人は広瀬のマンションで寄り添い暖かく過ごしている。聖人は和也に愛おしげに肩を抱き寄せられている。時折聖人の柔らかい髪を優しく撫でるその指先がくすぐったくて、思わず和也に擦り寄ってしまう。「ここに毎日通ってくるん...

夜香蘭の雫 2

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<a-side> 浜田伊織。 聖人の初恋の人。 しかし恋に気付いた時、伊織は既に他の人のもので、聖人は告白すら出来なかった。 伊織から突然縁を切られたのは中学2年の時だ。あの時の絶望を聖人は今でも忘れていない。聖人を「特別」という言葉で縛りつけていたにも拘らず、一方的に関係を切られた。何の説明すらなかった。14歳の聖人には伊織の拒絶は辛すぎた。以来伊織の記憶一切を封じ込め、出会いすらなかったことにしていた...

夜香蘭の雫 3

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<i-side> 伊織が聖人の行方を知ったのは本当に偶然だった。 数週間前、コンビニで弁当を買いに行った時の事だ。会計待ちの時、ふと視線に入ったレジ脇にある無償配布のタウン誌、滅多に手を出さないそれをその日は何故か手に取り持ち帰っていた。「お疲れ……っても誰もいねぇな」 皆出払った事務所に戻った伊織は、打ち合わせ用の長机に買ってきた弁当を出して、徐に食べだした。無造作さに弁当を口に放り込みながら、パラパラ...

夜香蘭の雫 4

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<i-side> 店の女性客は店にあまり入ってこないガテン系イケメンの伊織にチラチラ視線を寄せている。そんな事など全く気にもせず、伊織はただ聖人が来るのを待ち続けていた。 実際待っている時間はそれ程経過していない。早く会いたいと思う一方、このまま会わないですぐに立ち去りたい気もする。それ程伊織は聖人に会いたい反面、会うことが怖かった。「お待たせして申し訳ありません。私が橘ですが……」 後ろから突然聞こえた...

夜香蘭の雫 5 (R18)

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 R18表現が入ります。年齢に満たない方、表現が苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。<k-side> 大晦日の夜、和也はダイニングテーブルの椅子に腰掛けて、キッチンに立つ聖人を見つめている。聖人は年越し蕎麦準備の真っ最中だ。「聖人、無理しなくていいんだぞ」「ううん、僕、こないだ店長に教えてもらったんだ。だから大丈夫」 蕎麦は茹で方が難しいのは料理の出来ない和也でも何となく知っている。「広瀬さん、今話しかけないで...

夜香蘭の雫 6

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<a-side> 三が日明けが仕事始めの和也と聖人は、休みが終わる前に聖人の祖母・洋子を老人ホームに訪ねることにした。和也は洋子に挨拶をして、聖人と同棲することの了解を取りたいと言ってくれたのだ。聖人は和也の誠実な気持ちがとても嬉しかった。 老人ホームは電車だと日帰りは難しい距離にある。しかし今回は和也の車で向かっているため、朝早く出れば日帰りも可能であった。「おばあさまには俺が行くこと、伝えてあるのか...

夜香蘭の雫 7

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<a-side>「そうなんだ。和也さんはとてもいい人で、僕が心から愛している……僕の、恋人なんだ」 聖人は洋子に和也との関係を告げた。祖母がどういう反応を示すのか全く想像がつかない。洋子は茫とした顔つきのままだ。聖人の発言を脳内で情報処理しているのか、何も言葉を発さない。 どれ程の時間が経過しただろうか。聖人にはとてつもなく長く感じられる。やはり高齢の祖母には理解出来ない話だったろうか。諦めかけた時、洋子...

夜香蘭の雫 8

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<a-side> 正月が終わり、日常生活が戻ってきた。聖人は仕事と学校との両立を続けながら、和也との同棲に向けて引っ越しの準備に取り掛かっていた。「えーっ、橘くん、同棲すんの?」「こ、声が大きいってばっ」 小林は子供の授業参観出席のため休んでいる。その代打で荒木という男の子がシフトに入っていた。彼は秋からの来客数増加に合わせて雇われたフリーターだ。他にもバイトをいくつか掛け持ちしている元気のいい男子だ。...

夜香蘭の雫 9

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<a-side>「僕の探してる聖人じゃないかって、教えてくれたんだ」 あのタウン誌は去年秋に発刊された。聖人もサンプルには目を通した。名前の表記はアキトとカタカナ表記にしてもらったはず。しかし掲載された写真は数枚で、聖人と判断がつくほど大きく掲げられてしまった。知り合いが見れば誰かは分かってしまう。 聖人は思った。伊織もこの雑誌を見たのではないだろうかと。「もう去年の暮れには聖人がここにいるって分かって...