醒めない夢

遠い囁き 01

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囁きシリーズ第5弾。大学卒業後、地元に戻った真聡と離れ離れになった恵。お互い仕事が忙しく会えない日々が続くが……。 全26話。...

遠い囁き 02

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 渋滞に少し巻き込まれてしまい、新宿には1時間程で到着した。ホテルにチェックインし、足早に部屋に入る。扉が閉じると同時にどちらからともなく忙しなく抱き合う。 「やっとメグを抱き締められた……」「僕も真聡にずっと触りたかった」「メグ、キスして」「甘えん坊なんだから……」  恵の身長はそれほど低くはない。175センチはあるのだが、真聡はそれより10センチほど高い。恵は顔を上げ、真聡の唇に自らのそれを触れる。数ヶ月...

遠い囁き 03

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「ま……まさ……と?」「そうだよ、俺だよ。開けて、早く。外、暑くてしょうがない」 ーー真聡が玄関ドアの向こうにいる?  会いたくて仕方がない真聡が、すぐ近くにいることが信じられない。気が急いて足がもつれる。鍵を開ける指先も動きが覚束ない。 そっと玄関ドアを開けて、恐る恐る視線を上げると、そこには愛しい真聡が立っていた。 「ただいま、メグ」「嘘……」「なんで?」「だって会えないって……」「ふふふ、サプライズだ...

遠い囁き 04

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 まだ暑さが残る初秋の逢瀬から数ヶ月経過した。真聡が言っていた通り、秋から海外に出向くようになる。この短期間に既に数回渡航している。1回の出張で約1週間程滞在しているようだ。日本にいようが、海外にいようが、会えないのは同じだ。しかし海外にいると時差の関係で電話のタイミングが難しい。自然とメールのやり取りが増えていく。  今も真聡はフランスに行っている。帰国は来週の予定らしい。今、恵は社員食堂で昼休憩...

遠い囁き 05

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「ご無沙汰しています、雪野さん」「樹村くん……」  樹村涼太郎は、真聡と同期入社の男性だ。就活時、インターン生として出会った2人は意気投合した。真聡は親友と思っている樹村だが、樹村は恋愛感情を真聡に持っている。そしてその悩みを時折恵に電話で打ち明けてくる。本来なら恋敵であるはずの樹村だが、なぜだか恵に懐いていた。 「元気にしているかい?」「ええ、おかげさまで」  そこから世間話を一通り繰り広げる。真聡と...

遠い囁き 06

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 真聡と恵の遠恋は2年目に突入した。3月生まれの恵は年を一つ重ねて5月生まれの真聡と10歳違いになる時期だった。 先月の誕生日の際には、真聡から郵送でプレゼントが送られてきた。香水だった。 「俺がつけてるのと同じ奴。それをつけて俺を感じて」  気障な台詞を吐く真聡が可愛くて仕方ない。貰った香水を手首に少しつけてみる。鼻を寄せて香りを嗅いでみると、フローラルとムスクの甘い香りが漂う。確かに真聡の香りだった...

遠い囁き 07

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「げっ、メグ、あいつの秘書になったの?」  電話の向こうで真聡が嫌そうな声を出す。 「うん……ごめん」「ああ、分かってるよ。メグのせいじゃないよな。異動は絶対だからな」  社会人2年目の真聡は、学生の頃と違い、会社の柵を理解したのか、すぐに事情を察してくれた。 「でもやっぱ、あいつ、公私混同してんだろうなあ。くそぅ、ぶん殴りてぇ」「真聡……」  大人な配慮を見せたと思ったら、こういった子供っぽい部分は健在で...

遠い囁き 08

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 その翌日、恵は先に飛んでいた気持ちを追いかけて、東京へ向かう。到着ロビーにはほぼ1年前と同じ光景が恵を待っていた。 「メグっ!」  会いたくて会いたくてたまらなかった真聡が、手を伸ばせば届くところにいる。 「真聡っ!」  もう人目なんて関係なかった。恵はボストンバッグしか手にしていない。人混みを掻き分け、真聡に手を伸ばす。バッグは床に落とした。伸ばした手で真聡を抱きしめる。真聡は飛び込んできた恵を胸...

遠い囁き 09

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 妄想の中でいろいろと考えていたら、悲しくなって無意識に涙が溢れていた。 「ふふ、僕はベッドでいつも泣いてしまうね」「メグ……」「真聡が就活の時も、東京駅のホテルでこんな風になってしまったのを覚えてるよ」  恵は泣いた原因を知られたくなくて、うやむやにしようとどうでもいい事を口にする。すると真聡がきつく抱き締めてきた。 「メグ。なんか、俺に言いたいこと、あるんじゃないのか?」  核心を突く真聡の一言に、...

遠い囁き 10

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 真聡の浮気疑惑は、恵の杞憂だと分かってから数ヶ月が経過した。あのタイミングで無理矢理にでも真聡と会って体を重ねたことは、今考えると必然だったと恵は思う。会う時間がないと嘆いてはいけない。会う時間は自ら無理矢理でも作り出さないと生まれない事をこの時恵は学んだ。 逆に真聡の杞憂は、桜庭と恵の復縁だ。しかしそれを蔑ろには出来ない。桜庭の秘書になってからというもの、10年間付き合っていた頃よりも一緒に過ご...