醒めない夢

親友の恋人

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「幼馴染シリーズ」番外編。徹大を好きな瑞樹をずっと支えてきた潤。二人が結ばれたことを祝福しながらも、その心は複雑で……。 全9話。...

親友の恋人 2

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   恋人と続かない俺。交際期間は最長半年。最短一月。俺から告白したことは一度もなくて、全て相手のそれから始まっている。相手の見た目と雰囲気に直観で嫌悪感を抱かなければ、とりあえず付き合ってみるんだが、これって別段特別じゃなくて皆そうだよな。両思いじゃない限り、好きな人とは付き合えない。  今さっき俺をフッた彼女は、同じ営業部に所属する派遣社員。二ヶ月前。部の飲み会の帰り「コーヒー、飲みませんか」と...

親友の恋人 3

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  「潤くん……」  瑞樹は俺を見るとほっとした表情を浮かべ、立ち上がった。「待たせてごめん」と、瑞樹の艶々として柔らかい黒髪をぐしゃぐしゃ撫でた。これが昔から俺の慰め方。ちょっと雑に扱うくらいがちょうどいい。二十二歳の瑞樹は、俺に触られることになんの疑問も嫌悪も抱いていない。 「徹大とまた喧嘩したのか?」「……ううん……違う……けど……」  身長百八十センチの俺と、百六十センチの瑞樹。この身長差のせいで俯く瑞...

親友の恋人 4

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  「俺んちに来るってこと、徹大にちゃんと言ってるのか?」  何本目か分からない酎ハイに口をつけたばかりの瑞樹は「知らない、そんなの」と唇を尖らせてふいっと顔を背けた。そんな顔をするなよ。可愛いくて襲いたくなるじゃないか。 「どうせ、着拒にしてるんだろ……全く、しょうがない奴だな」  邪な気持ちを悟られなくて大袈裟に愚痴りながら、自分のスマホを確認した。と、同時にはあっと深い溜息が溢れた。想像通り、そこ...

親友の恋人 5

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  「ごめん……そうだよな。おまえは真面目な奴だから、どこの高校にいったって、瑞樹は瑞樹だ。今のまま頑張ればいいんだ」 瑞樹は泣きそうな顔で俺を見上げると「潤くん、ありがとう」と可愛らしい笑顔を見せてくれた。  この頃には、瑞樹が徹大に恋していると、俺は気付いていた。  瑞樹は、志望校を変更して、徹大を追いかけた。少しでも側にいたかったのだ。きっとそれは地獄の日々だったはず。徹大の周囲には常に女がいた。...

親友の恋人 6

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   徹大が専門学校を卒業するタイミングで、二人は別れた。  あいつの遊び癖は次第に落ち着いていったが、それに反比例して、一凛の心はあいつから離れていったらしい。 結婚まで考えていた徹大は、同棲を申し込んだ時にこっぴどくフラれた。 だが、意外な程、悲壮感はなかった。 「まあ、しょうがねえか」  執着するほどの愛が徹大にも既になかったのか。 追い縋ることもなく、あっけらかんと別れを受け入れていたのが、印...

親友の恋人 7

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  「潤くん。ここ、どうしたの?」  隣に座る瑞樹の指が、左頬に触れて、はっと我に返った。 細い指。少しささくれた感触。 看護師という仕事柄、清潔を求められる指先は、潤いが足らず荒れている。 「ひっかき傷みたいだけど……」  何も答えなかったのは、このままずっと瑞樹が頬を撫でてくれればいいのにと思ったから。 「もしかして……彼女に……?」「そう。ついさっきね。派手に振られたよ」  言い当てたと思わなかったのか...

親友の恋人 8

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  「どうって……」  不安げな眼差しで、瑞樹が俺を見つめる。 「あれ、演技だと思ってるかもしれないけど」「お、思ってないよ!」  予想に反して、瑞樹は大きく首を横に振って否定した。 その様子はいやいやする子どものようで、俺の笑いを誘った。 「その……告られるまでは……確かに分かんなかったけどさ。でも……高校ん時から今まで、潤くんが、俺を大事にしてくれてたのは、ちゃんと分かってるし、感謝してるんだ」  初めて語...

親友の恋人 9(最終話)

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  「近所迷惑だぞ。何時だと思ってんだ」  玄関ドアの向こうに、息を切らした徹大が立っていた。 「……瑞樹に手出してないだろうな」と開口一番喧嘩腰な徹大に、俺は「さあ?」と嘯いた。  徹大はムッとした苛立った表情を浮かべると、家主の俺の許可もなく、ずかずかと家に上がり込んだ。 俺は呆れはしたが特に咎めず、少し遅れて後に続くと、徹大の声が聞こえた。 「瑞樹! すまないっ。でもあれは違うんだ!」  心細げに立...