醒めない夢

溺愛しすぎるデスティニー 1-1

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第1話 春海と智秋 小学校からの帰り道、浅香智秋(あさかちあき)の足取りはいつもゆっくりだが、この日はいつになくのろくて、視線の先には、鈍い灰色のアスファルトしか見えていない。 小学一年生の智秋は、いつも五つ年上、六年生の兄、春海(はるみ)と登下校する。 智秋は甘えん坊で、春海と手を繋いでいても、兄が幼い弟の遅すぎる歩調を合わせていることに気づかないし、兄は文句の一つも言わない。 本当に仲の良い兄...

溺愛しすぎるデスティニー 1-2

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 二人の母親、浅香鞠衣(まりい)はオメガだ。 鞠衣は十八歳の時、春海の父親であるアルファと出会い、恋愛の末、結ばれた。相手は大企業の御曹司。すぐに春海を授かったが、二人は結婚には至らなかったのは、生まれたのがオメガ種の赤ん坊だったからで、それが春海だ。 智秋と春海は異父兄弟だ。 智秋の父親もアルファだが、既婚者のため結婚できなかった。そして鞠衣は相手に噛みつかれて望まない番にされたことで、余計に智...

溺愛しすぎるデスティニー 1-3

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「ねえ、智秋」  「なに?」「……ううん。なんでもない」「なんだよう。言いかけてやめるなよ」 「……あのね、僕、実は……」 春海が智秋の耳元でそっと打ち明ける。「……兄ちゃん、恋人が、いるの?」「うん……去年から、付き合ってるんだ」 春海は照れて俯き、シャープペンシルの先でノートに意味不明な模様を書きながら、頬をぽうっと染めた。「ねえねえ、どんな人?」  半分以上残っている宿題そっちのけで、今度は智秋が春海...

溺愛しすぎるデスティニー 2-1

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第2話 兄の恋人「ねえ、兄ちゃんは、南条さんといつもこんなところでデートしてるの?」 生まれて初めてのオシャレなカフェに、智秋は居心地が悪くて、落ち着かない。緊張のあまり、ジュースに口をつけてばかりいるから、兄の恋人が来る前だというのに、既に氷だけになりそうな勢いだ。 「ううん。僕たち、学校でしか会えないんだよね。それにしても、そこまで緊張しなくてもいいんじゃない? 智秋」 向かいに座る春海が、く...

溺愛しすぎるデスティニー 2-2

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「あの、清史郎さん」「なんだ?」 清史郎はコーヒーを飲む姿すら決まっていて、何度見ても智秋はドキドキ緊張してしまう。「あの、ありがとうございましたっ!」「急にどうした?」「兄ちゃんを悪い奴から助けてくれたって話を聞いた時、清史郎さん、正義の味方だって思って感動しました」「正義の味方か……」と清史郎がくすりと笑った。 「俺達が付き合うようになったきっかけは、春海にとってはこのうえない不幸だった。だが俺...

溺愛しすぎるデスティニー 3-1

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第3話 発情期 智秋が南條清史郎に会ったのは、中学一年生の時の、その一度きりだ。 清史郎を怒らせたとずっと気にしていたが、その後、春海が彼と別れた様子はなく、智秋はほっと胸をなでおろす。 後日知るのは、清史郎が大企業の南条コーポレーションの御曹司だということだった。 帝王学の一環で、学業の合間に既に経営参画していて、子会社を一つ任されているらしい。 母親は、春海がセレブと付き合っていると知り、かな...

溺愛しすぎるデスティニー 3-2

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 ※ ※ ※「ちーあきチャン。一人でなにしてるの?」 高校二年の秋。少し寒くなり、日が短くなった放課後の裏庭。  背後からざりっと聞こえた複数の砂利を踏みしめる音に、やばいと思ったのは、後の祭りだった。「水やりしてんだよ。見て分かんねえの?」「智秋チャン。冷てえな。こんなに好きなのに、なんで分かってくれねえの?」 背後から首に腕を回され、ぎゅっと締められて身動きが取れない。「北園、やめろって」 好き...

溺愛しすぎるデスティニー 3-3

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「あいつ、部活抜けてまで智秋チャン追いかけてきやがって。気が利かねえやつだな、まったく」「遊びもここまでかあ。つまんねえの」「SPがいないから、智秋チャン、いじめて遊べると思ったのによう」 北園らは出鼻をくじかれて愚痴をこぼしている間に、亜泉がすごい勢いで走って近づいてきた。「おい! おまえら! 浅香に何してる!」「亜泉……」    亜泉は智秋を自分のほうに力強く引き寄せた。「なんもしてねえよ。ちょー...

溺愛しすぎるデスティニー 3-4

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※ ※ ※ それ以降、ちょくちょく北園たちに絡まれはしたものの、亜泉らに守られながら、智秋は最終学年を迎えた。 高校三年生の七月。 あと数日で夏休みという朝、目覚めた瞬間、智秋は異変に気づいた。 身体が熱く、鼓動が激しくて、息苦しい。 下腹部に経験したことがない、甘ったるい痛みを感じて、おそるおそる手を股間に延ばすと、性器が勃ち上がっていた。(なに……これ……)「智秋ー? そろそろ起きないと、遅刻するよ...

溺愛しすぎるデスティニー 4-1

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第4話 変化 一学期の終業式数日前、初めての発情期を迎えた智秋は、体調が優れず連日欠席後、夏休みに突入する。 智秋は春海とともにかかりつけの病院に行き、診察を受けた。 検査結果は、血中フェロモン含有率が平均値を大きく上回っているというものだった。 青ざめる智秋の背中を、「智秋、大丈夫だよ」と春海が優しく撫でてくれるが、身体の震えが収まらない。 発情期は嵐のように通りすぎ、今、身体は正常な状態だ。 ...