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醒めない夢

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インビジブル 17 (最終話)

 和也は保安検査場を通り抜けると、ラウンジに向かった。
 そこに足を踏み入れ、後ろの自動ドアが閉まると、外部の喧騒が嘘のような静けさだ。
 搭乗までの時間をゆったりと過ごす乗客の姿がちらほら見受けられる。
 空席を探すためざっと辺りを見渡して、ある人物を見つけると、和也は迷いなくそちらに向かった。 
 その人は窓側のカウンター席に座っていた。
 窓の向こうにはちょうど離陸するタイミングの飛行機があって、それを見るともなしに眺めているようだ。
 声をかけようとして、先に振り返ったのは、芹野だった。
 和也と視線が合うと、悪巧みが成功したような、勝ち誇った笑みを浮かべた。
 はあっと溜息を一つ吐いて、和也は彼の隣の空席に腰を下ろした。

「俺からのクリスマスプレゼント、ちゃんとおまえの手元に届いたみたいだな」
「芹野、おまえ……見てたのか? ちょっと悪戯が過ぎやしないか?」
「ふふっ、ちゃんと届いて良かった。あの子が来るかどうか、ちょっと自信がなかったんだよねえ」

 芹野は綺麗な笑みを浮かべるばかりで、和也の咎めに反省の色一つ見せない。

「まあいい。聖人に会わせてくれたことには、礼を言う。ありがとう」
「あの子、こてんぱんにフッてあげたのか?」
「……フラレたのは俺の方だが、それなりにけじめはつけてきたよ。それに彼の恋人ともサプライズでご対面してきた」
「わお。そりゃ、すごい。ね、そいつと殴り合ったりしたわけ? 聖人を返せ、とか言ったりしてさ」

 芹野はふざけてシャドーボクシングの真似をした。
 どうやら修羅場を期待しているらしい。
 他人の失恋をここまで茶化されても、和也に怒りはなかった。

「期待に応えられなくて申し訳ないな」
「なーんだ、つまらないの。なあ、聖人の今カレってどんな奴? 俺、そいつの顔、知らないんだよ」
「超絶にいい男だ。あれは黙ってても女が寄ってくる人種だ」
「あらら。聖人、そんなのと付き合って大丈夫なのかな。いつかそいつ女に走って、ポイ捨てされちゃうんじゃない?」
「その心配はなさそうだ。どちらかというと、そいつの方が聖人にベタ惚れしてる感じだったから安心している」
「へえ、やっぱり聖人ってすごいよねえ。生粋のノンケをころっと落としちゃうんだから。それにしても……」

 芹野は思い出したようにぷっと吹いた。

「なんだ?」
「広瀬の感想、ちょっと変だよね。心配ない、とか、安心だ、とか。恋人を取られた男の言い分じゃないよ。箱入り娘を嫁に出す父親みたいだ」
「そう言えば……あの男にもそれらしきことを言われたな……」
「やっぱり!」

 ヤバい、ウケる、と芹野は涙を流して大喜びしている。

「そんなつもりはないんだが……」

 和也は少々落ち込んだ。
 聖人の今後が気になるのは確かだけれども、決して親のような気持ちからではない。
 自分に父性はないと断言できる。
 莉絵子の子どもと自分の血縁関係がはっきりしない時点でさえも、相当忌み嫌っていたのだから。

「あー、ごめんごめん。笑いすぎちゃった」

 芹野はようやく笑いが一段落ついていたけれど、それでもくすくす笑いながら、眦の涙を指先で拭っている。

「聖人って本当にふらふらしてるから、広瀬が心配する気持ちはよく分かる。まあ、あの不安定さがあの子の魅力でもあるんだけどけどね。今の彼氏ともそう遠くない将来別れると思うな。俺が保証する」
「そんなのは要らん。それに聖人を馬鹿にするな。いくらおまえでも許さんぞ」
「オトーサン、怒らないで。おまえだって、それを狙ってるくせに」

 和也は彼の問いかけに答えなかった。
 年若いカップルの破局を待っているなんて、口が裂けても言えやしない。
 しかし和也は密かにそこに賭けた。
 何年かかるか分からない、勝ち目のないギャンブル。
 賭けるのは己の恋情のみ。
 だから例え負けても、誰にも迷惑はかからない。
 客観的にみても、往生際の悪さに狂気を感じる。
 和也はこの異常な執着を諦めて受け入れていた。
 ずっと以前、聖人を抱いた時、何気なく彼に告げた言葉を思い出した。

『俺は君を一生ストーキングするつもりだ。だから、君は俺から決して逃げられない』

 あの時は聖人と添い遂げるつもりでこの台詞をはいたけれど、今は彼を遠くから監視する立場になってしまった。

「芹野、おまえは、こっちと東京を行ったり来たりするんだったよな?」

 東京では、和也は芹野と同居する。
 新しい勤務先の住所を伝えて、家の選択は彼に任せきりだ。
 荷物は事前に教えられた宛先に送った。
 芹野らしくセレブレティな界隈であることには間違いなかった。
 今日の移動日は、わざわざ芹野が広瀬の予定に合わせて、ラウンジで待ち合わせしていた。

「……監視役とかやだからね」

 さっそく和也の意図を察したらしく、芹野が唇を尖らせた。

「でも、おまえ、そういうの嫌いじゃないだろう?」
「まあ、そうだけども……」
「俺はもう聖人に寄り添えない。だから芹野が彼を今まで通り見守ってやってくれればありがたい」
「……それくらいなら、してやってもいいけどさあ」

 なんだかんだと芹野は面倒見のよい性格だ。

「芹野、恩に着る」

 その時、搭乗案内を知らせるデジタル表示が切り替わって、二人の視線がそちらに向かった。
 和也らが乗る飛行機の搭乗手続きが開始されたようだった。

「行くか」
「ああ」

 二人はどちらともなくシートから立ち上がり、連れ立ってラウンジを後にした。
 旅行客の流れに乗って、搭乗ゲートに向かった。

「いよいよ広瀬と同棲かあ。すっごい楽しみなんだけど」
「同棲じゃない。ルームシェアだ。くれぐれも恋人には誤解がないように伝えておいてくれよ。色恋沙汰でもめるのはもう勘弁してくれ」

 彼の恋人の正体は、未だに教えられていない。

「まあまあ、そこら辺も含めて楽しもうじゃないか」
「はあっ……おまえは本当にトラブルメーカーだな」

 長身の色男二人がおしゃべりを楽しみながら颯爽と歩く姿は、女性客の視線を惹き付けたまま、搭乗ゲートに消えていった。



【the end】




最後まで読んでいただいてありがとうございました。
「夜香蘭の雫」214話から最終話までの
和也サイドエピソードをお届けしました。

芹野のなぐさめで失恋から立ち直った和也。
ニューカプ登場に驚かれたのではないでしょうか。
この意外な組み合わせは、今、密かなお気に入りです。

そして和也はフラレても聖人一筋。
ちょっとキモいストーカー体質はイケメン属性で相殺です。

次の物語は、新作か、既存作品の続編かは、時期も含めて未定です。



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3 Comments

きよ  

お疲れ様でした

終わっちゃいましたね、おつかれさまでした。
 芹野さんの伏線がここにきたのですね、アッサリでしたけど。聖人の揺れ動く気持ち!と いうことだったけど、実際 行ったり来たりはなかったでしたねえ~。聖人くんは悩んでいて少し可哀想だったけど、色々な人が出てきて楽しかったです。高校の先輩はどうしているのでしょうね?それはともかく、今後、聖人くんに第三の男が現れたりして・・なんて言ったら怒られそう。ともかく、言いたいのは、和也サイドが読めて最高!  

2017/05/19 (Fri) 21:24 | EDIT | REPLY |   

ゆー  

完結おめでとうございます!

夜香蘭の雫、インビジブルの完結おめでとうございます(*≧∀≦*)

最後まで伊織と和也のどちらと結ばれるのかわからず、ドキドキしながら読んでました。伊織×聖人のカップルも好きですが和也×聖人のカップルも好きなので、和也が聖人を諦めてなくて思わず心の中でガッツポーズしちゃいました!ストーカー万歳です\(^^)/
実はまだ和也×聖人を諦めていません(笑)
ただそうなると、聖人と伊織が別れてしまうという事になるのでそれは嫌かも…と心が完全に矛盾しちゃってますが(^^;)

和也×芹野は以前からなんとなく思っていたので、今回インビジブルを「とうとう来たか〜」と思いながら読んでました。和也と芹野の幼馴染ならではのサバサバとした空気感や2人の掛け合いが好きなので、和也×聖人みたいな甘々な雰囲気にならなくて良かった…と密やかにホッとしていました(^^;)
和也が聖人と愛し合った事で人として成長していく姿が本当に良かったです!過去はアレでしたが、本当の愛を知らなかっただけで、実は一途な男だったんですね(^^)インビジブルで和也の心の内が知れて良かったです。
ところで芹野の恋人は年下のあの彼でしょうか?だったら嬉しいなぁ…(^^)

長くなってしまいましたが、改めて完結お疲れ様でした!
これからも楽しみにしています(*^▽^*)

2017/05/19 (Fri) 08:16 | EDIT | REPLY |   

ふわこ  

夜香雫の雫、完結お疲れさまでしたぁ‼︎ありがとうございます☆
やっと伝えられて良かった♡
コメできないからもどかしかったです(๑˃̵ᴗ˂̵)

いおりんと聖人をくっつける意向だったとは気付きませんでした^_^ビックリしました、最後までどっちと結ばれるのか心配してました、和也の元にも帰っちゃいそうで好きの度合いが和也にまだ傾いてると思って読んでて不安でした笑
私は伊織×聖人が大好き♡なのでふたりのその後やイチャラブがどうしても見たいです!お願いします(*'▽'*)

私は和也のストーキングのくだり覚えていたので、やはりなと思いました、愛ってそんなにものわかりよくできないもの
聖人を失ったら喪失感半端ないはずだし。
私の想いはふたりと娘さんと素敵な家族になっていくです。ちょいちょい小さなケンカをしながら^ ^
時々覗いてみたいほど大好きなふたりです♡

一般BLの中で1番大好きなお話、ブログです(╹◡╹)
これからもキュンや切ないお話を楽しみにしています

ふわこ♪

2017/05/19 (Fri) 05:43 | EDIT | REPLY |   

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