君と過ごす夏 ー伊織と聖人ー

麻斗結椛


診断メーカーからお題「君と過ごす夏」を拝借して書きました。

伊織と聖人の夏。
ずっと夏ならいいのにって哀しげに微笑む君が、
どうしようもなく儚げで、その柔い口唇に熱をうつした。
#僕と君の夏

https://shindanmaker.com/545359



「伊織くーん」


 俺は、おまえにそう呼ばれるのが、本当に好きだった。
 甘ったるい声。
 俺しか縋る人がいない、俺だけを見つめる、聖人。
 本当に可愛くて、手放したくなかったのに。



 入道雲。きつすぎる陽射し。むせ返る潮風。
 麦わら帽子をかぶった聖人が、波打ち際をはしゃぎながら俺の前をかけていく。
 突然振り返り、手を大きく振った。

 これは夢だ。
 だって、俺らは海にいったことは一度もないんだから。
 おまえと絶縁した俺は、今では夢の中でしか、おまえに会えない。



 襟足が隠れるくらい伸びた聖人の髪は、白くて細いうなじを隠している。
 日焼けしないようにと、長袖の薄グレーのパーカーを羽織っていた。
 足元は膝丈のハーフパンツで、そこから華奢な足が伸びている。

「もう、伊織くんも走ろうよう、ねえってば」
「そんなガキみたいなこと、出来っか」

 わざとあいつに駆け寄らないのは、あいつから俺に縋ってほしいから。
 案の定、聖人は「もう」と言いながら、俺のほうに戻ってきた。
 それだけで俺は満足だ。

「伊織くん? どうしたの?」

 俺の顔を覗き込む聖人。
 無邪気で可愛い笑みに、俺の胸はぎゅうっと締め付けられる。

 おまえが、好きなんだ。

 だけど、言えない。
 夢だと分かっていても、言えなかった。

「いや……」

 もっと愛想よくすればいいのに、夢の中の俺はまだ十五歳で、かっこつけだ。

 俺とのかけっこを諦めたのか、聖人は俺の隣を大人しく歩き始めた。

「僕、海、初めて来たよ。ねえ、やっぱり泳いじゃだめ? せっかく水着持ってきたんだもの」
「日焼けしたら、ばあちゃんに叱られるだろう」
「ちゃんとラッシュガード着るし、日焼け止めも塗るから。ねえ、だめえ? 伊織くん」
「だめだ」

 以前こいつをプールに連れていった時、変質者にイタズラされそうになったことを思い出して、ぞっとする。
 こいつは何一つ悪くないが、男をおかしくさせる得体の知れない媚薬をふりまくから厄介だ。
 俺もそれにやられた口だが。
 それにしても、あんな恐ろしい思いは、二度とゴメンだ。

「ちぇー、伊織くんのケチー」
「おい」
「え?」

 俺は聖人の指先を握った。

「あ、な、なに、急に?」

 ぽぽぽと顔を赤くする聖人。
 ざまあみろ。俺をケチよばわりするからだ。

「お、男同士で手なんかつないだら、おかしいよ!」
「いいんだよ。聖人は女みたいだから、誰も気にしない」
「ひどいよ! 伊織くん!」

 意地悪ばかりする俺は、本当にガキだ。
 
 夢の中とはいえ「そんなこと言うなよ」と第三者の俺が諌めても、十五の俺には聞こえていないようだ。

 都合よく、夢の海には、誰もいない。

 俺と聖人の二人きり。

 いつの間にか、夕暮れで、聖人のきれいな顔が、オレンジに染まる。

 好きだ。好きだ。聖人。

 おまえにキスしたい。抱きしめたい。そして……。

「ずっと、夏なら、いいのになあ……」と、聖人が呟いた。

 消えてしまう。

 そう思った。

 夢が醒める、予兆。

「聖人」

 俺は細いおまえを腕に抱き締め、そのさくらんぼのように愛らしい唇に、キスを落とした。

 行かないで。

 好きだ。好きで、好きで、たまらない……。

 


 そして、夢は無情にも、終わる。視界に開けるのは、見慣れた天井。

 俺は誰にも気づかれないように、いつものように、手の甲で眦を拭う。

 あと何回、こんな夢を見るのだろうか。

 現実では二度と会えないおまえに、夢の中で会えるのはうれしくも、辛い。

 夢のおまえは、ずっと十三歳で、だけど実際にはもう年月は経っていて、おまえは十八歳か。

 会いたい。おまえに、会いたい。 

 罵倒されてもいいから、おまえに会いたいよ……聖人。





読んでいただいて、ありがとうございました。

長編を書いているのですが、行き詰まっているので、
息抜きに超短編を書いてしまいました。

「夜香蘭の雫」を書き終えて、
その後の伊織と聖人を書きたくて
うずうずしているのですが、
諸事情で書けない鬱憤を晴らすかのような、
伊織と聖人の純愛エピソード。

とはいえ、
夢オチの、再会前の話ですが。

聖人が和也じゃなくて伊織を選んだEDに
賛否いただきましたが、
私、やはり伊織x聖人カプが好きなんですよね。

伊織って、本当に聖人ラブなんですよ。
一途に何年も思って、なんていじらしいと。

ちょっと切ないけど、
伊織の聖人の好きっぷりエピが書けて、
満足です(*^_^*)




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Posted by麻斗結椛

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