溺愛しすぎるデスティニー 1-3

麻斗結椛

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「ねえ、智秋」  
「なに?」
「……ううん。なんでもない」
「なんだよう。言いかけてやめるなよ」 
「……あのね、僕、実は……」

 春海が智秋の耳元でそっと打ち明ける。

「……兄ちゃん、恋人が、いるの?」
「うん……去年から、付き合ってるんだ」

 春海は照れて俯き、シャープペンシルの先でノートに意味不明な模様を書きながら、頬をぽうっと染めた。

「ねえねえ、どんな人?」 

 半分以上残っている宿題そっちのけで、今度は智秋が春海の恋バナに食いついた。
 春海はずっと智秋に打ち明けたかったのかもしれない。
 馴れ初めから尋ねると、ぽつぽつと打ち明けてくれた。

 春海の恋人は、男性だった。
 名前は、南条清史郎といい、春海と同学年の学生だという。
 
「入学式で彼に一目惚れしたんだ」

 清史郎はアルファで、容貌も体躯も頭脳も家柄も、アルファの中で飛び抜けて優れた人物だった。

「でもずっと遠くから見てるだけだったんだ」
「なんで? 兄ちゃん、綺麗だから、絶対すぐ恋人にしてくれるのに」
「清史郎は近寄りがたいオーラを放ってて、いつもアルファの取り巻きが一緒で、僕みたいなオメガは、恐れ多くて近寄ることも出来ないんだ」
「じゃあ、なんでそんな雲の上の人と付き合うようになったの?」
「去年、学校でアルファに襲われそうになったところを、清史郎が助けてくれたんだ」
「襲われた? なにそれ、俺、聞いてないっ!」
「結局未遂だったから、母さんにも言ってないし、智秋にも余計な心配かけたくなかったから、言えなかったんだ。ごめんね」
「本当に大丈夫だったの?」
「うん。それに僕も悪かったんだ。予定日より早く発情期が来てね。そんな時に限って薬も特効薬も持ってなくて」

 襲ってきたのはアルファの男子生徒で、もともと春海に好意を寄せていたらしい。運悪く性フェロモンを放つ春海を見かけて、突発的にヒート状態になり、見境なく襲ってきたという。

「必死に抵抗したんだけど、もともと非力だし、僕も発情してるから抗う力が弱くて。もうだめかなって諦めかけた時に、清史郎が教室に飛び込んできて、先輩を引き剥がして、一発でのしてくれたんだ」
「うわあ、すげえ。かっけえな! 南条さん!」

 まだ見ぬ兄の恋人は、正義の味方だ。
 智秋はわくわくしながら続きを促した。
 
「襲われたショックとずっと好きだった人が助けにきてくれた現実が信じられなくて、気が動転して、気がついたら『君が好きなんだ!』って叫んでた」
「ひえー、兄ちゃん、やるなあ」
「もう、茶化すないでよ。今思えば、とんでもないこと言ったなって自分でも恥ずかしいんだからさあ」

 春海が両手で顔を覆った。

「南条さんは、なんて言ってくれたの?」
「それがね『俺も好きだ』って、言ってくれて……」
「すげえ! 両思いじゃん!」
「うん。僕もびっくりした。僕なんか彼の眼中に入っていないって思ってたから、最初はからかわれてるのかと思ったもの」
「兄ちゃんは綺麗で優しいから、南条さんもずっと兄ちゃんに告りたくて仕方なかったんじゃないかな。あーあ。いいなあ。両思い。俺も誰かとそんな風になれるのかなあ……あれ?」

 ふと智秋は気がついた。

「南条さんって、アルファなのに、発情している兄ちゃんを見ても、ヒート起こさないんだね」
「清史郎は特殊体質で、ヒートを自分の意志で抑制できるんだ。ほんの僅かなアルファがこの特性を持っているんだよ」
「うわあ……やっぱ兄ちゃんの恋人になる人は、どっか普通のアルファと違うな!」

「智秋、笑わないで聞いてくれる?」
「なに?」
「智秋は、運命の番って、知ってる」
「運命の……番……? 聞いたこと、ない」

 春海が「おとぎ話みたいなものなんだけどね」と前置きして、説明してくれた。
 普通、アルファがオメガの性フェロモンに強く反応してヒートを起こして首筋を噛むことにより、番となる。だが運命の番とは発情期やヒートに無関係に、アルファとオメガが強く惹かれ合うことを指していた。

「へえ……ロマンチックだねえ……」
「僕の運命の番が、清史郎だったらいいなって思うんだ」
「絶対そうだよ! そうに決まってる」
「……そうかなあ……」

 智秋は、春海の憂いを帯びた微笑みには気が付かなかった。

「ねえ、智秋。清史郎に会いたい?」
「え? いいの?」
「僕、清史郎に智秋の話をしているから、清史郎も智秋に会ってみたいってずっと言ってて。僕も智秋に清史郎を紹介したいんだ」
「会いたい! 兄ちゃんの恋人に、会ってみたい!」
「じゃあ、さっそく清史郎に都合のいい日を聞いてみるね」

 春海がスマホでメールをちまちま打つ様子を、智秋は頬杖をついて眺めた。
 
(ああ。兄ちゃんはすごく幸せなんだな)

 大好きな兄の幸せな笑顔が、いつまでも続けばいいと智秋は心から願っていた。



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Posted by麻斗結椛