溺愛しすぎるデスティニー 3-2

麻斗結椛

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 ※ ※ ※



「ちーあきチャン。一人でなにしてるの?」

 高校二年の秋。少し寒くなり、日が短くなった放課後の裏庭。 
 背後からざりっと聞こえた複数の砂利を踏みしめる音に、やばいと思ったのは、後の祭りだった。

「水やりしてんだよ。見て分かんねえの?」
「智秋チャン。冷てえな。こんなに好きなのに、なんで分かってくれねえの?」

 背後から首に腕を回され、ぎゅっと締められて身動きが取れない。

「北園、やめろって」

 好きというのは嘘だ。腕の力は半端なく強くて、智秋は苦しくて、げほげほと咳き込む。
 精一杯強がって抗っても、北園と呼ばれたアルファの男子生徒には、全く効き目はない。
 他二名、取り巻きがいて、彼らもニヤニヤしながら、智秋を取り囲む。

「強気なオメガくんって、食べちゃいたいほどかわいいよなあ」
「早く智秋ちゃんにも発情期くるといいのにね」
「そうそう。こんな色気のかけらもない子に発情期がきたら、俺らどんな風にヒート起こすか、見ものだよな。智秋ちゃんとエッチしてえなあ」

 智秋は園芸委員で、週に何回か、放課後、複数人の委員で花壇の整備をする。
 だがこの日はみな用事があって出来ないと聞いて、水やりくらいなら一人で出来るかと、人気のない裏庭にいたのがまずかった。

 特別クラスのアルファは、多額の寄付金を学校に収めている金持ちの子息子女ばかりで、彼らは勉強は出来るが、素行が悪い。
 智秋は、同学年の北園と、その取り巻きに一年生の頃から目を付けられていた。
 学年で唯一のオメガの男子である智秋は、イジメの対象だったのだ。
 普段から廊下ですれ違いざまに「智秋ちゃん、つっこませろよ」と周囲に聞こえるようにからかわれて、智秋は恥ずかしさのあまりにかっと顔を赤らめる。
 ベータの同級生は、巻き込まれたくないのか、遠巻きに見ているだけで助けてくれない。
 智秋が怒るより先に、親友の亜泉がすごい剣幕で彼らに抗議するのが、救いだった。
 北園たちは多額の寄付の恩恵で教師に大目に見られているせいで、嫌がらせをやめる気配はない。
 教師に泣きつくのは、男としての矜持が許さず、智秋は彼らに屈しないことを示すために、平然とした態度を貫いている。
 
(亜泉に一人になるなって言われてたのに。今日に限って、こんな人気のないとこで)

 どんなに後悔しても、現実一人きりで、今近くに味方はいない。
 逃げるが勝ちだが、鈍足の智秋ではすぐに追いつかれて、ますます彼らを助長させるだけだ。
 言葉遊びだけで彼らを満足させて、この場を乗り切るしか、智秋にいじめから逃げる手段はなかった。

「俺はオメガだけど、おまえらとセックスなんか、絶対しない」
「オメガは俺らの性欲処理担当って、おまえ、知ってる?」
「俺は好きな人としか、そういうことはしないって決めてるから」
「うわ。智秋ちゃん、マジで可愛い。もう、襲ってもいいかな?」

 北園は智秋の首を締めていた腕を緩め、背後から智秋の身体をいやらしく撫でまわす。
 鳥肌が立つほど気持ち悪いが、気取られないように微動だにしない。
 取り巻き連中が「やっちゃえ」と面白半分に囃したてる。

「北園。俺をからかって、そんなに楽しいのか?」
「智秋チャンって、なーんか、唆られるんだよねえ。存在そのものが、嗜虐心、めっちゃ刺激してくれんのよ。いたぶりたいっつうの?」
「欲求不満かよ」
「まっさか。オメガのセフレいるし。嫌がるあいつらに無理やり噛み付くのが、楽しいんだよ」
「てめえ!」

 智秋は衝動的に北園の拘束を振り切り、その胸ぐらを掴んだ。
 北園は「智秋ちゃん、いったいどうしたんだよ」とへらへらしていて、怖がってすらいないのが悔しい。

「なんで、そんなことしやがるんだよ!」
「はあ? ヒート起こしたアルファがオメガに噛み付くのは、俺らの本能じゃん」
「おまえ、相手をちゃんと、好きなのか?」
「まさかあ。俺、アルファの許嫁、いるし」
「じゃあ、そっちで我慢しとけよ!」
「それはそれ。これはこれ。オメガは俺らにやられてなんぼじゃんか。つか、番にされて、ラッキーくらいにしか思ってねんじゃねえの?」
「んなわけないだろうが!」

 大嫌いな母親だが、こんなアルファに望まない番にされたのかと思うと、腹が立った。

「アルファが求めたら、オメガがそれに応えるっていうのは、世の摂理だよなあ?」と、北園が取り巻き連中に問いかけると、「そうそう。オメガは俺らの性奴隷って、細胞レベルで決まってるの」「本能に逆らってもいいことないじゃん」とニヤついているから、余計にむかつく。

「てめえら……」

 智秋は爪が手のひらにくい込むほど拳を強く握りしめた。
 オメガを人間扱いしない奴らを、許せない。

(ぶんなぐってやる!)

 返り討ちにあうのは、分かっている。
 智秋は非力で、多勢に無勢だ。 
 だが、今この怒りを爆発させないで、どうする。
 リンチで殺されてもいい。そんな覚悟で、拳を振りかざした瞬間だった。

「浅香!」

 悲壮なほど張り上げる亜泉の声が、智秋の手の動きを制止した。



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Posted by麻斗結椛