溺愛しすぎるデスティニー 3-3

麻斗結椛

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「あいつ、部活抜けてまで智秋チャン追いかけてきやがって。気が利かねえやつだな、まったく」
「遊びもここまでかあ。つまんねえの」
「SPがいないから、智秋チャン、いじめて遊べると思ったのによう」

 北園らは出鼻をくじかれて愚痴をこぼしている間に、亜泉がすごい勢いで走って近づいてきた。

「おい! おまえら! 浅香に何してる!」
「亜泉……」
   
 亜泉は智秋を自分のほうに力強く引き寄せた。

「なんもしてねえよ。ちょーっと話してただーけ。ね、智秋チャン」
「こいつに何かしたら、ただじゃすまないぞ!」
「亜泉さあ。おまえ、ベータのくせに、オメガの智秋チャン、愛しちゃってるわけ?」
「俺はこいつの親友だ。おまえらみたいな色情狂と一緒にするな!」
「うはっ、言ってくれるねえ。亜泉」

 北園は、亜泉より細身だが長身で、遊び慣れた雰囲気はむしろ本質の残忍さがにじみ、相当に質が悪い。

「おまえさあ、あんまり俺らに楯突くと、痛い目みるぞ」
「望むところだ! やってみろよ!」
「亜泉! もうやめろって! マジで何もされてないから」

 智秋は北園に手を伸ばそうとする亜泉を必死で押さえた。

「浅香……」
「ほらあ。智秋チャンだってこう言ってるんだから。俺ら、トモダチだよなあ?」
「……ああ」

 最低最悪な北園と友人だなんて、虫唾が走る。
 だが、亜泉の怒りを抑えたくて、あえて同調した。

「じゃあな。智秋チャン。また遊んでくれよ」

 北園たちは、だるそうにその場を去っていき、しんと静まり返った裏庭に、智秋と亜泉が取り残された。

「浅香。本当に何もされなかったか?」
「ああ。あとすこしでぶんなぐるところだったから、助かった。ありがと」
「負けるって分かってても殴りたいくらい、やなことがあったんだな。ごめん。間に合わなくて」
「俺のほうこそ、一人になるなって、あれほどおまえに言われてたのに。でもなんで、俺がここにいるってわかったんだ?」
「いつもおまえと放課後ここにいる園芸委員の子が帰ってたから、もしかして一人でいるんじゃないかって心配になってきたら、案の定いるし、それに北園たちにからまれてるから、心臓止まりそうだった」
「……ごめんな、亜泉」

 首が痛くなるくらいにでかい亜泉を見上げると、心底安堵した顔をされて、申し訳なくなる。

「俺さ、部活抜けてきたから、また戻らないといけないけど、琴葉(ことは)が待ってるから、今日はあいつと一緒に帰れよ」

 琴葉は、亜泉の恋人だ。
 久原いずみへの片思いは、智秋に正直に打ち明けたのをきっかけに昇華したらしく、去年から彼女に告白されたのをきっかけに、二人は交際を始めた。智秋は琴葉とも仲が良い。

「ことちゃん、亜泉の部活が終わるの、待ってるんだろ? 悪いからいいって」
「これ以上俺に心配させんな。行くぞ」

 亜泉が待っているので、ばたばたと園芸用道具を片付ける。彼と連れ立って校庭に行くと、部活動をしている生徒の気配に、平和を感じて、智秋はほっと胸をなでおろした。

 校庭を見下ろせる外階段に座っていた女子生徒が、二人の姿を見て立ち上がった。
 それが琴葉で、ショートカットの似合う、勝ち気な雰囲気の美人だ。
 亜泉が北園たちの所業を琴葉にかいつまんで話すと、彼女は自分に起きた災難のように憤慨した。

「あいつら……ちーちゃんにそんな酷いことして、許せない!」
「ことちゃん、俺さ、こんなひ弱だけど一応男だし、ちょっとからかわれたくらい、全然平気だよ?」
「そういう問題じゃないって。あいつら、アルファで金持ちだからって調子に乗ってんだ。ベータでもあいつらのえじきになった女子、たくさんいるんだから!」
「琴葉。おまえはこいつを家に送り届けるだけでいいからな。無理するなよ」
「ちーちゃんのことはあたしに任せて、かっちゃんはもう戻りなって」
「ん、わり。じゃあ、二人共気をつけて!」

 亜泉が駆け足でグラウンドに戻っていく。

「ほんと、ことちゃん、ごめんね」
「なんで謝るのよう」
「なんかオメガって、マジで、ダメダメだなって……情けなくなる」
「そんなことないって」
「俺、どうしてなめられるんだろ。すっげえふがいない」
「オメガの女子の安全には、先生も目を光らせてるけど、ちーちゃん、男の子だからね、先生も甘く見ちゃってるとこあるよね。ふざけてるだけだって。でも男子だって大勢にセクハラされたら怖いし、足がすくんで逃げられないよ。でも、あたしやかっちゃんができるだけ側にいるからさ」
「あはは……発情期まだなのに、これだもん。俺、もしそうなったら、学校来れないかもなあ……」
「そうならないために、抑制剤とかがあるんでしょ。みんなそれ飲んで、普通に学校きてるじゃない」

(普通じゃないよ。普通でありたいために、苦しいのを我慢して、普通を装っているにすぎないんだ)

 ベータの琴葉に、オメガの逃れられない苦しみは到底実感できない。
 彼女が真剣に智秋を心配してくれているのはうれしいが、種を超えた本質的な相互理解はありえないのだ。



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Posted by麻斗結椛