溺愛しすぎるデスティニー 3-4

麻斗結椛

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※ ※ ※


 それ以降、ちょくちょく北園たちに絡まれはしたものの、亜泉らに守られながら、智秋は最終学年を迎えた。

 高校三年生の七月。
 あと数日で夏休みという朝、目覚めた瞬間、智秋は異変に気づいた。
 身体が熱く、鼓動が激しくて、息苦しい。
 下腹部に経験したことがない、甘ったるい痛みを感じて、おそるおそる手を股間に延ばすと、性器が勃ち上がっていた。

(なに……これ……)

「智秋ー? そろそろ起きないと、遅刻するよー」

 先に起きて朝食の準備をしていた春海が、智秋を起こすために部屋に入ってきた。
 大学卒業後、南条コーポレーションに就職した春海は、いまだに実家ぐらしだ。

「……この、匂い……智秋!」

 春海がベッドに駆け寄り、上段を慌てて覗き込む。

「苦しい……兄ちゃん、怖いよう……助けてえ……」

 身体が疼いて無意識に腰がゆらぐ。
 マグマのように滾る何かが、出口を探して智秋の中で暴れまわって、怖い。
 恐怖のあまり、智秋はぼろぼろ泣いていた。

「大丈夫。ただの発情期だ。とうとう智秋にもきたんだね。身体の中がむずむずするのは、正常な症状だから、心配しなくていい」
「……そなの?」
「下におりよう。僕に掴まってごらん」

 智秋はひくひくと嗚咽をこぼしながら手を伸ばし、春海にしがみついた。
 
「んっ……」

 人との接触が、更に身体の熱を高ぶらせて、智秋は小さく喘いだ。
 春海は智秋を抱きあげ、床に下ろすと、自ら床に座り、智秋を横抱きした。
  
「兄ちゃん……俺、このまま……? どうなっちゃうの?」
「僕の薬があるからあげるけど、即効性はないんだ。だから飲んでもしばらくはこの状態が続く」
「じゃあ、兄ちゃんの特効薬、早く打ってよう……。俺、いやだ、こんなの……怖いよう……」

 ますます高まる身体の疼きが気持ち悪い。
 こんな身体、自分のじゃない。
 性器が意思とは関係なく昂ぶり、そこを触りたくてたまらなくなる。

 春海が苦しそうにしている様子を、智秋は一度も見たことがない。
 発情期がこんなに苦しいものだと、智秋は知らなかった。

「落ち着いて、智秋。僕がなんとかしてあげるから」
「ほんと……?」
「僕が智秋に嘘ついたことある?」
「ううん、ない」
「智秋、僕を見て」

 春海の綺麗な顔が近づいてきて、次の瞬間、智秋は春海にキスされていた。
 春海の柔らかい唇が、智秋の小さな口を優しく食む。
 くちゅっと時折唾液の水音が耳をくすぐり、余計に身体が疼く。

「兄ちゃん……なんで、キス……するの」
「ん? 気持ちよくない?」
「……ううん、気持ち、いい……」

 初めての唇への接触。
 それはとても心地よく、智秋の体から力が抜けていき、くたりと春海により掛かる。

「それでいいよ。リラックスして」

 春海は唇を重ねたまま、優しく囁くと、智秋のパジャマのズボンの中に手を差し込んだ。

「やっ……そこ、触らないでっ……汚いってば……」
「汚くない。ここ、触って溜まったものを出さないと、智秋、ずっと苦しいままだよ」
「何を出すの……?」
「精液。出しちゃえば、少し楽になるから」

 春海の細い指先が、智秋の性器の先端に優しく触れて、びくんと身体が震えた。

「だめ、おかしくなるっ……」
「おかしくなっていいの。性衝動っていう正しい反応なんだから、恥ずかしくない。僕しか見てないから、智秋、安心して乱れてごらん」

 春海は先端のぬめりを手のひらになじませ、手を筒状にすると、智秋の昂ぶりをゆっくりと上下に扱き出した。

「あ……あ……兄ちゃん……兄ちゃん……」

 喘ぎながら涙目で春海を見つめた。
 春海の表情に一切の性的なものは含まれておらず、まるで聖母のように穏やかで、智秋を安心させる。

「気持ちいい? 智秋」
「ん……」と、智秋は小さく頷いた。
「よかった……じゃあ、そろそろ出しちゃおうか」

 春海が少し強く性器を握り、手の動きを早くした。

「あ、あ、ああっ……」

 身体の中を熱い疼きが駆け上り、ぱっとそれが弾けた瞬間に、春海の手の中に白濁を放っていた。

「はあ、はあ……」

 過呼吸状態で息苦しい。マラソンの後のように息が切れる。
 しかしさっきまで感じていた甘い苦痛は収まっていた。
 朦朧とした意識が少しずつはっきりして、智秋を優しく見つめる春海に気がついた。

「兄ちゃん……」
「少し楽になったみたいだね」
「うん……あっ! 兄ちゃん、手が……」

 春海の手に、智秋の精液がべっとりこびりついている。

「ごめ……こんな、汚いの……」
「何言ってるの。智秋のだもん。汚くないよ」
「お願いだから、手洗ってきて……」
「分かった。ちょっと待っててね」

 部屋を出ていく春海の後ろ姿を、ぼんやり眺めた。
 その時初めて春海がワイシャツにスラックスという格好だと気づいた。

(兄ちゃん……出社前だったんだな……)

 吐精した身体は脱力しきって動けない。智秋は下腹部を隠すこと無くねころび、ぼんやりと天井を眺めて、春海が戻ってくるのを待った。さっきまで初めての疼きに苦しかった身体は、少し楽になっていた。

「おまたせ、智秋」

 春海の手には、濡れタオルがあった。
「そのまま寝てて」と春海は、智秋の性器を丁寧にぬぐい始めた。
 せっかく疼きが収まったのに、他人に触れられて下腹部に熱が溜まりそうになる。
 だが身体が思うように動かせなくて、結局春海に綺麗にしてもらった。

「これ、飲んで」
 
 春海が水と錠剤を差し出す。智秋はよろよろ起き上がり、それを弱々しく飲み込んだ。

「しばらく学校休まなきゃね」
「あと三日で夏休みなのに」
「だったらなおさら好都合だよ。初めての発情期だから、ちゃんと病院に行かなきゃならないし、薬の効き目とか副作用とか、ちゃんと確認しないとね」
「ん……分かった……」

 まだ熱っぽいがだいぶ具合が良くなったので、智秋は部屋着に着替えた。

「兄ちゃん、会社……遅刻……」
「ちょっと遅れますって連絡いれてるから、大丈夫だよ」
「俺のせいで、ごめんね」
「気にしなくていいの。僕がいた時でよかったよ。母さんじゃ対処できないからね」
「あっ、母さん!」

 智秋はすっかり母親の存在を忘れていた。
 春海に身体を触ってもらった時、大きな声で喘いだから、きっと智秋の発情に気がついているはずだ。

「母さんなら、まだ寝てるよ。昨日午前様だったから」
「そっか」
「ねえ、兄ちゃん。なんで、さっき俺にキスしたの? もう、兄ちゃんがファーストキスになっちゃったよ」
「あはは。ごめんね。でも気持ちよかったでしょう?」
「うっ……そうだけど、変なことするなよう。兄弟同士で、恥ずかしいじゃんかあ」
「僕的には、智秋の初めてが僕で嬉しいけどね。さあ、お喋りはそれぐらいにして、僕のベッドで安静に寝てなさい」

 智秋は、晴海に抱き起こされて、下段の布団に寝かされた。

「また身体が疼くかもしれないけど、さっきみたいに酷くはならないはずだよ。初めて吐精して疲れただろうから、ゆっくり休みなさい。学校には僕から欠席の連絡しとく。目が覚めたら、薬を飲むんだよ?」
「うん、ありがと……」

 晴海はいつもより一時間遅れで、会社に向かった。
 一人きりになった智秋は、すとんと眠りに落ちてしまう。
 目が覚めたのは夕方。朝ほどではないが、やはり身体の芯がまだ疼いて気色悪い。枕元を見ると、薬が置いてある。飲まないと今朝みたいな症状になるのかと思うと、ぞっとした。

(薬、飲まなきゃ……)

 智秋はふらふらしながら自室を出ると、台所にいた母親と鉢合わせた。

「あ……」
「智秋、あんた」

 突然彼女が智秋の首筋に鼻を擦り付けられて、くんくんと匂いを嗅いだ。

「な、なに?」
「発情期、きた?」
「な、なんで、分かるの?」
「すごく匂う。甘い香り。あんたの性フェロモン、かなり強い。でもよかった。あんまり発情期がこないものだから、もしかしたら診断ミスでベータかと思ってたけど、安心したわ」
「でも、さっき兄ちゃんの薬飲んだ……」

 自分の香りは、自分では分からない。
 発情期になったと伝えていないのに、香りだけで判断つくほど智秋の匂いは強烈なのか。
 智秋は言いようのない不安に襲われる。

「効き目の強力なのを処方してもらわないと、発情期の時、ガッコ、行けないわよ。犯してくださいって言ってるようなものだもの」

 自分によく似た母親の、にたりとした笑みに、ぞくっと背筋に悪寒が走る。

「春海は見た目はいいけど、フェロモンが薄いのがイマイチなんだ。だけど、あんたは平凡な見かけだけど、フェロモンが強いのが意外だったわね。夏休みの間にさっさと金持ちのアルファ見つけてセックスしといで。あんたならすぐ妊娠するさ。元気なアルファの赤ん坊を産んで、親孝行してちょうだい」

 春海に過剰な期待をし続けてきた母親が、思いがけない智秋のフェロモンの濃さに、切り札が一枚増えたとばかりに喜び、ほくそ笑む姿が、智秋はそら恐ろしかった。

「俺たちって……母さんにとって、何なの?」
「なにって……子どもじゃないか」

 面倒くさそうに、母親が振り返る。

「だったら、どうして、どうして、そんな、ひどいことばっかり言うんだよ!」
「どこがひどいのさ。あんたの将来を考えて言ってるんだ。アルファの子どもを生めば、楽して生きていけるじゃないか」
「違う! 母さんは自分のことしか、考えてない。俺は絶対にアルファとセックスしないし、子どもだって生まない!」
「ふん、世間を舐めるんじゃないよ。おまえの思い通りになんかならないさ。オメガはアルファの性のはけ口って決まってるのさ」

 智秋と母親は、価値観が噛み合わないから、言い争いにもならない。
 母親はつっかかってくる智秋が面倒で、さっさと自室に戻ってしまった。

『智秋には発情期なんて来なければいいのになあ』

(兄ちゃんは、母さんのこんな異常な欲望を一人で受け止めてたのか……)

 春海の真意を、ようやく智秋は理解した。



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Posted by麻斗結椛