溺愛しすぎるデスティニー 11(R18)(最終話)

麻斗結椛

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第11話 運命の溺愛(R18)(最終話)

R18表現が含まれています。年齢に満たない方、物語の設定や内容が苦手な方は、閲覧をご遠慮下さい。



「退院したら、一緒に暮らそう」
「ええっ? それって……」

 退院を数日後に控えたある日、智秋は清史郎に同棲を提案された。
 純粋に清史郎の気持ちがうれしい。
 智秋だって、彼と一緒にいたい気持ちは同じだ。
 しかしその申し出に、すぐ首を縦に振るわけにはいかない。
 一旦保留にして、真っ先に春海に相談する。
 どうしても春海の反応が気になるのだ。
 だが、彼の答えは、非常にさばさばしたものだった。

「うん。いいんじゃない?」

 運命の番でなくとも側にいたい。別れたくない。
 そう言って、清史郎に縋っていた春海なのに。

「……兄ちゃん。清史郎さんのこと、本当に、吹っ切れたんだね……」
「そうなんだよ。今思えば、長い間、催眠状態だったような気がする。思い込みって怖いね……って、それは冗談なんだけどさ」

 春海が意外と毒舌家なことを、智秋は最近知った。

「気づいてると思うけど、清史郎、ああ見えて、繊細なんだ。傷害事件以来、やっぱり智秋が心配でたまらないみたいでさ。言い方悪いけど、手元に置いて安心したいみたいなんだ」

 やはりそうだった。
 智秋が側にいないと、清史郎は不安なのだ。

 母親が退院日当日、顔を出した。その時、同棲の件を伝える。
 智秋の知らぬ間に、清史郎と智秋の交際は、母親公認だ。
 たとえそうでなくとも、セレブのアルファとの同棲を、守銭奴の母親が反対するはずない。
 だから事後報告のつもりだった。

「ああ、南条さんに聞いてるから」

 清史郎は、智秋の回答を待たずに、先に母親に了解を取り付けていた。
 智秋が断るなんて、露ほども思っていなかったのだろう。
 母親の「だから?」みたいな反応に、智秋は拍子抜けだ。

「でもまさか、あんたが春海の恋人、取っちゃうなんてねえ。ま、どっちにしても、南条と手が切れなくてよかったわ。そうそう、智秋、さっさと番にしてもらいなさいよ。春海みたくモタモタして、他のオメガにかっさらわれるんじゃないよ。ああ、春海が行き遅れのオメガになったらどうしようかねえ」
「兄ちゃんは、俺と違って、すっげえモテるんだぞ! だから、清史郎さんより素敵な人がすぐ見つかるんだ!」
「あんたさ、自分の恋人、何気に貶してるって、気づいてる?」
「あ……」

 母親の指摘で、智秋は清史郎をディスっていると気づかされた。

(ごめん! 清史郎さんは、かっこいいからね!)

 それでも、春海の次の恋が、清史郎とのそれを上回るものであって欲しいと、どうしても願わずにいられないのだ。

 二週間の入院生活を終えて、智秋は退院する。
 そして清史郎との同棲が始まった。

 身体一つで清史郎の元に転がり込んだ智秋だが、何一つ不自由することはない。
 身の回りのものは、退院前に全て清史郎が準備してくれた。
 肩の傷は痛むが、ゆっくりした動作なら、日常生活には困らない。
 ただ過剰に心配症な清史郎は、家事の一切を智秋に禁止した。
 料理と掃除を担当するハウスキーピングを雇ったのだ。
 これには智秋はびっくりしたが(それで清史郎さんが安心するなら)と受け入れた。
 本当はリハビリがてら家事もしたい。
 終日家にいても、智秋にすることはないのだから。
 だから毎日病院に通って、肩のリハビリに励んだ。
 その甲斐あってか、少しずつスムーズに動かせるようになっていた。
 
 
 同棲開始して一月が経った。
 毎日ではないが、清史郎はなるべく早い帰宅を心がけているようだ。
 だがそれは裏を返せば、春海の配慮だ。
 秘書の彼が、過密スケジュールをうまく調整してくれているのだと、智秋は兄に感謝した。

 夕飯後が、二人の語らいの時。
 肩の傷に触るからと、定番の背後からの抱っこは、しばらくの間封印中だ。
 ソファに隣り合わせに座り、清史郎がそっと智秋の左肩を抱き寄せるのが、最近のいちゃいちゃスタイルだ。 

「欲しいものや足りないものはないか? 何でも叶えるから言ってくれ」

 智秋はもともと物欲がない。
 細々したもの、例えばお菓子などは、ハウスキーピングさんが買い物に行くついでに、こっそりお願いしている。
 それにきっと清史郎が言っているのは、そんなささやかなものではないのだ。
 しかし無い袖は振れない。

「特に何もないよ」
「なにかあるはずだ! 遠慮するなと、いつも言ってるだろう」
「そんなこと言われても……」
「最新のゲーム機は?」
「スマホで十分だしなあ」
「ブランド物の服やバッグは?」
「お出かけしないのにもったいないよ。それに俺、ファッションとかよく分からないし」

 むむっと清史郎が黙り込む。
 智秋の歯ごたえのない反応が、お気に召さないらしい。
 ようやく同棲までこぎつけた智秋を、どろどろに甘やかしたい清史郎の気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
 だが智秋が無欲すぎて、尽くしがいがないのだろう。

 清史郎本人は気づいていないが、かなり威圧的な表情だ。はっきり言って、怖い。
 知らない人が見たら、清史郎が智秋を睨んでいるように見えるだろう。
 だが智秋は(清史郎さん、拗ねちゃって可愛いなあ)と呑気なことを考えている。

 好きと気づく前の智秋は、清史郎を、かっこよくて、寡黙な、頼りがいのある大人だと決めつけていた。
 だから、一方的に甘えたり拗ねたりして、彼を困らせてばかりいたのだ。
 だが素の清史郎は、純粋で、不器用で、感情豊かな人間味溢れる、素敵な人。
 感情を露わにする彼を見ているだけで、ますます彼への愛おしさが増していくのが分かる。 

 清史郎の願いは「智秋の願いを叶えたい」だ。
 それなら、彼の願いを叶えたいのは、智秋も同じだ。
 何かお願いごと、ないかなあと、智秋は頭を捻る。

「あ、そうだ。一つあるかも」
「なんだ? 言ってみなさい」
「……でも、言いにくい。……怒らない?」
「俺が君を怒るはずがない」

(ふふっ、そんな怖い顔してるのに。ほんっと可愛いんだから)

「じゃあ言うけど、働きたい」
「……え?」
「出来れば、『プリンス』で……だめ?」

 清史郎からの返事がない。
 その代わり眉間の皺が深くなり、目を眇めて、脅されている気分だ。

「あー、もうそんなしかめっ面しないで。いい男が台無しだよ」

 智秋は清史郎の眉の間を、人差し指でリラックスさせようとぐりぐり撫でる。
 眉毛が動いて、時折変な顔になる清史郎に、ぷぷっと笑いが込み上がる。
 しかし清史郎は逆らいもせず、じっと黙っている。

(あー、悩んでるなあ)

 清史郎の心の葛藤が手に取るように分かる。

 智秋の願いを叶えてあげたい。
 だがプリンスで働かせるのは嫌だ。

 なぜならあそこはボーイズバー。客はほぼアルファ。
 恋人未満の関係の時は、ぐっと耐え忍んだだろうが、晴れて恋人同士になった今、智秋を溺愛する清史郎が、あの職場を許すはずがないのだ。

 智秋はまだ店を辞めていない。
 本当は清史郎との生活スタイルを合わせるため、辞めるつもりだった。
 だが先日、店長のスバルから、こんな連絡を貰ったのだ。

『昼間の時間帯、男の子が接客するカフェにしてみようかなって、店内リニューアル中なのよ。だってほら、夜だけじゃもったいないじゃない。稼働率あげてかなきゃね。ねえ、チアキ、あんた、日中のシフトに入らない? 傷が治ってからでいいからさ』

 接客業は自分に向いていた。
 夜でなければ、続けたかったのだから、渡りに船だ。

 智秋は清史郎にそんな事情を説明した。

「分かった」
「……いいの?」

 意外とすんなり認めてくれた清史郎に、智秋はぽかんとした。

「その顔はなんだ」
「反対されるかもって思ってたから」
「俺は智秋が大事だ。だがここに閉じ込めておくつもりはない。それに何も欲しがらない君が、唯一願うことをどうしてダメだと言える?」
「清史郎さん……」
「智秋、愛してるよ」
 
 触れるだけのキス。
 優しいまなざし。
 智秋は清史郎の胸に頬を寄せる。
 
(ねえ、俺、本当はもう一つ、お願いがあるんだ)

 だけどそれを、智秋はどうしても言えないでいた。
 


 ※ ※ ※

 
 
 こんな悩みは、あの人に相談するしかない。
 数日後、智秋は出勤前のハルトに無理を言って、店近くのカフェに呼び出した。

「要は欲求不満ってことか!」
「ち、ちがっ……! それに声、大きい!」

 智秋はしいっと人差し指を口にあてる。

「おまえの的を得ない、たらたらした話、要約したら、そうなるだろうが」
「ううっ……そうだけどさ」
「まあ、いいんじゃね? ちょっと前まで、清史郎さんを毛嫌いしていた智秋が、今じゃ、どうやってあの人とエッチに持ち込んだらいいのか悩んでるなんて、いやあ、贅沢な悩みだ。オニイチャンはうれしいよ」
「……もう、一つしか違わないのに、偉そうなんだからさ」

 清史郎との生活に過不足はない。
 不満というか、不安は、一向に清史郎が智秋に手を出してこないことだった。
 同棲一ヶ月が過ぎたというのに、いまだ清史郎と智秋の関係は、プラトニックだ。

「そんなの簡単じゃん。おまえが『抱いて』って言えば、楽勝だよ」
「俺がそんなセリフ言っても、きもいだけだってば」
「チアキ、それ、本気で言ってる?」
「うん!」
「あのなー」とハルトは頭を抱えた。

「おまえと清史郎さんは、我慢比べしてる状態なんだよ。あの人もたぶん、てか、絶対、エッチしたいの我慢してるから。なにしろ斜め上に気を使う人だからな。『智秋のアルファへのトラウマはまだ完治していない。だから決して怖い思いをさせてはいけない』って思い込んで、手が出せないだけなんだって。清史郎さんって超イケメンなのに、かなり変わった人だよなあ……」

 ハルトが清史郎の本質を見事に突いた。
 驚いた智秋は、前のめりに興奮する。

「そうなんだよ! 清史郎さん、いつも気遣う方向がずれてるの! ハルトくんが分かってくれて、すごくうれしい!」
「でもよう、智秋は、そんなポンコツ清史郎さんが大好きで、エッチしたいんだから、おまえも変わってるよ。絶対俺のほうが、イケてるのに」
「はいはい。もうそれはいいからさ。俺は、清史郎さんの不器用なところが可愛いくて大好きなの! だから、その、早く、キス以上のこと、してくれたらいいのになあって、思うんだけど……」

 何百回繰り返したか分からない自問自答は、再びスタートラインに戻ってくる。

「チアキ。いいこと教えてやる」

 指先でくいくいと呼び寄せられて、智秋は顔を突き出した。
 耳元で囁かれる提案に「……そっか」と智秋は何度もうなずく。

「それで、ダメ元でやってみろ」
「でも、それでもダメだったら、どうしたらいい?」
「その時はすっぱり別れるしかねえだろうなあ」
「やだ! 別れないもん!」
「じゃあ、頑張るしかねえだろうが」

 相談に飽きたハルトは「もう俺、行くわ。検討祈ってるぜ!」と、軽やかにカフェを出ていった。

「やっぱ、そうだよなあ。それしか、ないよねえ」

 智秋はひとりごちて、すっかり氷の溶けたアイスティーを、ストローでちゅうっと吸った。
 
 
 ※ ※ ※
 

 それから数日。
 散々悩んだ挙句、智秋は計画を実行に移す。
 
(これしかないんだから!)
 
「ただいま……智秋、いないのか?」

 午後十一時過ぎ、清史郎が帰宅した。
 最近の彼にしては、遅い時間だ。
 智秋の具合がよくなりつつあるから、仕事量を少しずつ増やしているのだと思う。

 いつもなら玄関に出迎える智秋だが、今日はソファに横たわったまま、清史郎の声を聞いていた。
 その格好は、前開きパジャマの上着を羽織っただけで、裾から色白の華奢な足が、惜しげもなく晒されている。

「智秋っ?」

 ぐったりしている智秋を見つけた清史郎は、ソファに駆け寄る。

「どうした? 具合が悪いのか?」
「清史郎さん……」
「ち、智秋……? 君……薬……」

 清史郎がわずかに後ずさった。
 智秋は発情期に入っている。
 だが薬を飲んでいない。
 そのせいで、激しい性衝動を発症し、濃厚なフェロモンを放出している。

 ハルトの作戦は、要は色仕掛けだった。
 
『オメガは発情期に入れば、いやでも性欲を抑えられないから、普段色気のないチアキが演技しなくとも、アルファの清史郎さんを誘惑するのは、赤子の手を捻るより簡単だぜ』

(ハルトくん……俺、がんばるからね……)

「飲んで、ない」
「なぜ……?」
「だって、清史郎さん、俺を、抱いてくれないから……」

 智秋は、自らの性衝動への嫌悪感は、いまだ全く癒えていない。
 レイプに抗えないほどの強い性欲に、自我を失ってしまうのが、怖いのだ。

 だから智秋は、清史郎と恋人になっても、毎日かかさず抑制剤を服用している。
 飲み続ける限り、発情期が来ても、性衝動は起きないし、フェロモン放出は微量に抑えられるのだ。

 そして清史郎は、ヒート管理が出来る特異体質。

 智秋は清史郎を愛している。
 彼となら、セックスへの恐怖と嫌悪を払拭できると思う。 
 だが優しすぎる恋人は、智秋を大事にしすぎるあまり、自らは決して手を出してこない。
 大げさな表現でなく、このままでは一生二人は交わらない。
 予感ではなく、確信だ。
 
「俺は、君が側にいてくれるだけで、幸せなんだ。無理して、身体を開く必要はないんだよ、智秋」

(やっぱり、そうだ)

 だから、智秋から果敢に挑んでいくしか、手段はない。

「無理なんか、してない……」

 智秋は清史郎に左手を延ばす。
 清史郎はおそるおそる、その手を握り返した。
 いつもなら平気だが、身体中が性感帯に変貌するこの時期は、肌のふれあいは刺激が強すぎる。

「ああっ……いつも、キスだけじゃ、いやなの……もっと……」
「だが」
「ねえ……、俺、そんなに色気ない……?」
「な、何を言ってる! 今、俺が、どれだけ我慢してると思って……」
「我慢なんて、しないで……。俺、まだ、あいつ……北園に触られた感覚が、身体に残ってて、気持ち悪いんだ。それを、清史郎さんに全部上書きしてほしいっ……」
「智秋!」

 清史郎に智秋は体ごと包まれる。
 だが、こんな時でも、清史郎は智秋の右肩をかばって、強く抱き締めたりなどしない。

「すまない。俺が意気地なしなばかりに、君にここまでさせて……」
「だめ! 清史郎さん、俺、もう、出ちゃう!」

 智秋は下半身を無意識に清史郎に押し付ける。
 慣れない疼きに、智秋の身体はまったく堪え性がない。
 清史郎に抱き締められているだけで、欲望が爆ぜてしまいそうだ。

 清史郎は、智秋を片手で抱いたまま、ハーフパンツの中に手を差し込んだ。

「……どこ触って……ああっ!」

 智秋が羞恥の喘ぎを漏らす。
 先走りがとろとろこぼれる先端に、清史郎の指先が触れた。
 強すぎる刺激に智秋はびくんと背筋をのけぞらせる。

「智秋、すごく濡れてる」
「やだ……そんなこと、言わないで……」
「楽にしてあげるから、リラックスしなさい」

 清史郎が智秋の性器を数回扱いた。
 可愛い喘ぎ声をあげながら、智秋は白濁を清史郎の手のひらに吐き出した。

「はあ、はあ、清史郎、さん……」

 吐精時、心拍数が上がるせいで、息苦しい。
 清史郎は手のひらについた智秋の精液を丁寧になめとっている。
 その妖艶な表情に見惚れて、智秋は咎めるのを忘れてしまう。

「智秋、苦しくないか?」
「ううん……すごく、気持ちよかった……俺も、早く、清史郎さんを、気持ちよくしてあげたい」
「……本当に、抱いていいのか?」
「うん。いい。お願いだから抱いて。俺を早く、清史郎さんのものにして」
「どうなっても知らないぞ。君を抱き壊すかもしれない」
「いい! 壊すくらい、愛して!」

 智秋は清史郎の胸に添えた手のひら越しに伝わる、鼓動の激しさに驚いた。

「清史郎さん、すごい、胸がばくばくしてる……」
「ああ。君が欲しくてたまらない。それに、ほら」

 智秋の左手を清史郎は自分の股間にあてがう。
 触れただけで大きな質量と分かり、智秋は驚いた。

「わ……大きくて……固い」
「ずっと、ずっと、我慢してた。もう一度聞く。俺に抱かれて、怖くないか?」
「不思議だけど、あんな目にあった後でも、清史郎さんだけは怖くなかった」
「そのわりには、俺の嫌われっぷりは凄かったと思うけど」
「それは……ごめんなさい。俺にもいろいろ葛藤があったんだよ。でも最初にそう言っていれば、清史郎さんをこんなに待たせなくてよかったのかな……」
「そんなことない。今、俺は最高に幸せだ。君から抱いて欲しいと強請られるなんて、夢にも思わなかったからな。さっきも言ったが、俺は君の側にいられるだけで幸せなんだ」
「清史郎さん……」
「寝室に行こう」

 清史郎は智秋をお姫様抱きする。
 智秋は恥ずかしくて清史郎の首に左腕だけを巻きつけ、顔を隠す。
 いつも開け放したままの寝室のドアを潜り、静かにベッドに降ろされる。
 同棲し始めてからは毎日、このベッドで一緒に寝ていた。
 しかし、いつだって清史郎は紳士で、智秋に添い寝するだけだった。

(俺、やっと、清史郎さんと……)

 ベッドにくたりと横たわり、智秋は清史郎がスーツを脱ぐ姿を眺めた。

 少しずつ露出していく身体。
 同性なのに、智秋とは全然違う。
 広い肩幅。熱い胸板。引き締まった全身。
 清史郎から放たれるのは、壮絶な男性の色気。
 アルファは性フェロモンは放出しないが、清史郎からは、きっと智秋が太刀打ちできないほどの、濃厚な物質が溢れているに違いない。

 智秋は清史郎の身体に、欲情している。
 さっき達したばかりだというのに、智秋の性器はゆるゆると勃ち上がり始めていた。

「せ、清史郎さん……早く、早く、来て。俺、我慢、できない」

 智秋は必死に両手を延ばす。

「右手を上げてはいけない。傷に触る」
「もう、こんな時まで、優しく、しないで。早く、俺をおかしくさせて……」
「……右肩が痛かったら、言うんだよ?」

 身体の疼きはますます強くなる一方だ。
 これは一種の麻薬だ。きっと肩の痛みなど凌駕してしまう。

 清史郎の口づけが、顔中に落ちてくる。
 ついばむようなそれは、遊んでいるようで、くすぐったい。
 同時にTシャツの中に手を這わされる。
 愛撫は初めてで、智秋はふるっと身体が震えた。
 大きな手のひらが、壊れ物に触れるように、優しく、優しく撫でていく。

「大丈夫か?」

 智秋はこくんと頷く。
 性欲に疼いても、身体に触れられても、ちっとも嫌じゃない。
 それは相手が清史郎だからだ。

 清史郎のキスが、唇に降りてくる。
 智秋は口元を緩めて、清史郎の舌を咥内に誘う。
 舌先をじゅうっと吸われ、溢れた唾液が、智秋の口元からとろりと流れ落ちていく。

 まだ清史郎は手加減している。
 もっと強く、彼を感じたい。

「清史郎さんともっとくっつきたい……服、脱がせて」
「全く君は……甘え上手だ」

 ふっと優しいため息をつくと、清史郎は智秋のパジャマのボタンを一つずつ外していく。
 全部はずして、腕を袖から静かに引き抜く。
 同時に下着も脱がされた。

 智秋は一糸まとわぬ姿となる。
 清史郎が智秋を見てほうっとため息を吐いた。

「お、俺……清史郎さんみたく、かっこよくない……貧相で、恥ずかしい……」
「……綺麗だ、智秋。ずっと、ずっと、見たかった。撫で回したかった。君の、この、白磁のように滑らかな身体を……」 
 
 やせっぽち智秋の身体を、清史郎の手が優しく愛撫を繰り返す。
 時折胸を通り過ぎる手のひらが、智秋の乳首をかすかに掠めるたびに、身体が跳ねる。
 智秋の後孔は無意識にきゅっと締まっては、そこを埋める何かを、激しく求めた。
 その時、清史郎の昂ぶりが、智秋の太ももに触れた。 

「清史郎さんは、俺を触ってるだけで、気持ちいいの?」
「ああ」
「ねえ、もう、挿れて……? あそこが、疼いて……」
「もう少しだけ君の身体を触らせてくれないか」

 清史郎のヒート制御は鉄壁だ。
 発情期のオメガを目の前にして、こんなに冷静に愛撫を施せるアルファはいないだろう。
 先に根を上げたのは、智秋の方だった。

「もう……我慢できないなんて……嘘だあ! 俺ばっかり、清史郎さんが、欲しいなんて……」
「もう少し、君を堪能したい」
「あんっ!」

 滑った感触を胸に感じて、背中が反る。
 見下ろすと、清史郎が智秋の乳首にねっとりと舌を這わしている。

「あ、やだ、だめ、そんなとこ、女の子じゃないのに」
「どうして、女はここが気持ちいいって、知ってる」
「だ、だって、高校の時、友達が……」

 高校時代の休み時間、ベータの友人らは、セックス談義に花を咲かせていた。
 ねんねの智秋は恥ずかしくて耳を塞いでいても、耳に入ってくるのを避けられなかったのだ。

「智秋は女なんて知らなくていい」
「し、知らないもんっ」
「二度と誰にも触れさせないよ。君に触れていいのは、俺だけだ」
「ん……俺も、清史郎さんにしか、愛されたくない……」

 今までの人生で、存在を忘れていた胸の尖りは、清史郎の唇と指先の愛撫で、じんじんと甘く痺れて、智秋の下腹部を再びたぎらせる。

「も、やめて……。また、出ちゃうから……」
「分かった」

 聞き分けの良すぎる清史郎の身体が、すうっと下りていった。

「きゃあ!」

 手じゃなかった。それは、温かい粘膜の感触だ。
 首を少し起こして下半身を見ると、清史郎が智秋の性器を口に含んでいるではないか。

「せ、清史郎さん……っ」

 だめ、そんなところ、と言いたくても、あまりにも強烈な快感に、否定は喘ぎ声に変わる。

「はあ、いいっ、気持ちいいっ! 出ちゃう、出ちゃうから! だめえ!」

 清史郎は、智秋の性器をじゅぶじゅぶと口淫しながら、智秋を上目遣いに見つめている。
 艶やかな黒髪がはらりと額に落ちて、艶めかしい視線が智秋をねっとりと犯していく。

「も、口、離して……お願いだからあ!」

 愛撫に慣れていない身体は、あっという間に、二度目の精を清史郎の口に放った。

「ばかあ……」
 
 智秋が羞恥に半べそをかいてしまう。
 清史郎は名残惜しそうに智秋の性器を咥えたままで、精液をじゅうっと吸い取り、美味しそうに飲み込んでいる。

「さっきも俺の、舐めてたし……そんなの飲んじゃだめだって……」
「智秋の精液は美味しいから、何の問題もない」

 口元を手の甲でぐいっと拭う仕草が、色っぽくてくらくらする。

「もう、俺、だめ……」

 立て続けに二度絶頂を迎えた智秋は、もともとあまり体力がないせいで、ぐったりと倒れ込む。
 清史郎は智秋の足を少し広げて、後孔の入り口をふわりと指先で触れた。

「そこ……」
「それでは、ここに挿れるのは、次回にしよう」
「え……? な、なんで?」

 ここでの中断宣言に、智秋は驚く。

「俺は君を苦しめたくない」
「で、でも、清史郎さん、まだ」
「俺のことは気にするな」
「だめ、だめ、いいから、早く挿れて! 清史郎さん、俺の中でイッてほしいの!」

 智秋は思わず叫んだ。 
 すると、清史郎の中指がつぶりと孔に入り込む。

「あ……」
「濡れている。智秋、気持ちいいんだね。辛くないか?」
「ん……大丈夫だから……ちゃんと挿れて……清史郎さんの……」

 抜き差しするリズムに乗って、智秋の後孔から淫靡な水音が聞こえてくる。
 清史郎の指が腹側のある部分に触れた時、強烈な快感に、智秋が背中をびくんとのけぞらせた。

「やあっ……そこ……」
「ここが男が女みたいによがる場所だ、智秋」
「あんっ、気持ちいい……」
「そうか。よかった」
「ねえ、清史郎さんの、挿れて、早く、お願い、我慢できないっ」

 清史郎は指を引き抜くと、智秋の両足をぐっと押し広げて、覆いかぶさる。

「智秋、挿れるよ」

 清史郎が昂ぶりを後孔にあてがう。

 その時だ。

 北園に犯された時の感触が、フラッシュバックした。
 身体が小刻みに震えだす。
 地獄のような恐怖が蘇る。

 清史郎にもそれはすぐに伝わった。

「怖い……怖い……」
「大丈夫だよ。智秋。今、君を抱いているのは、誰だ?」

 優しく紙や頬を、何度も撫でられる。

「あ……せ、せいしろう、さん……?」
「ああ。君が大事すぎて、抱けなくて、君に抱いてと言わせてしまった、情けない男だ。だから怖いことはないよ。安心して……」

 自分を卑下する表現がおかしくて、智秋はふふっと笑った。

「そう、それでいい。リラックスしていなさい」
「ん……」
  
 あの時とは違う。
 自分を包み込むのは、大好きな人なのだから。

 濡れそぼる後孔に、清史郎の昂ぶりはゆっくりと進んでいく。
 その間、二人は見つめ合い、軽く唇をついばみ合う。

「……痛くないか?」
「だいじょうぶ」

 何度もこの会話を繰り返して、ようやく清史郎の付け根が智秋に触れ、奥まで入ったのだと智秋は知る。

「はあ……」

 清史郎の色っぽい吐息が、智秋の耳元をくすぐる。
 ゆらゆらと腰を緩く前後に動かすだけだったが、次第にその動きが激しくなる。

「怖くないか?」
「うん。だって、清史郎さん、だから」

 激しい抽挿を、やせっぽちの智秋は必死に受け止めた。
 怒涛のような性欲と恋情が一気に身体に流れ込んでくるのが分かる。
 
「智秋の中、すごく、気持ちいいっ……」
 
 清史郎の切羽詰まった様子が嬉しい。
 智秋の細すぎる腰を掴んで、ぐっと腰を押し付けた瞬間、清史郎は智秋の中で爆ぜた。
 ほぼ同時に智秋も達した。
 途端に精液のぬくもりが腸内に広がる。
 アルファの射精は長い。

(あ……子ども……出来たかもしれない……)

 なんとなく、この時、智秋は妊娠を予感した。

 短時間に三回も吐精した智秋は、息も絶え絶えで身体に力が入らない。

「智秋!」

 その時、突然、智秋の首筋に痛みが走る。

「いたっ!」

 既に、首輪を外していた智秋の首に、清史郎が噛み付いたのだ。

「すまない……、もう、辛抱出来なかった。ようやく君は俺だけのものだ……」 
「あ……俺、清史郎さんの……番に……なったの?」
「ああ、そうだ。一生君を甘やかすからな。覚悟しなさい。嫌だといっても、聞いてやらないからな」

 晴れて番になり、子どものように無邪気に喜ぶ清史郎に、智秋は愛おしさが溢れて止まらなかった。

「愛してる、智秋」
「俺も、清史郎さん、愛してるよ」

 清史郎の溢れんばかりの愛に、智秋は溺れて生きるのだと、心に誓う。
 それが智秋から清史郎への、愛の証なのだから。



the end




◎あとがき◎


「溺愛しすぎるデスティニー」を読んでいただいて、ありがとうございました。

 こちらの作品は、エブリスタさんのBL合戦夏の陣に参加したくて書いた、新作です。
 とはいえ、以前書いた短編をベースに、エピソードを追加し、登場人物を増やして、物語の長さも奥行きも膨らませています。

 私の過去作品の三角関係は、攻め二人が一人の受けを取り合うというパターンばかりでした。
 しかしこの作品は、受け二人に攻め一人という、初のフォーメーションです。

 主役の智秋。
 私にしては珍しい平凡受けで、オメガのマイナスな特徴をもたせました。
 愛されキャラなのですが、みんなに好かれるのは面白くないので、母親とアルファの北園という悪役を投入しています。
 一応健気受けですが、ふがいない清史郎のせいで、なんだかたくましくなって、なんと、最終話では襲い受けにまでバージョンアップしちゃいました。 
 
 準主役の春海。
 弟の智秋と両極端のイメージにしたくて、美形で優秀キャラ。
 そして筋金入りのブラコン。智秋の初めての自◯を手伝うところに、行き過ぎ感を出してみました。実はあのシーンはかなり気に入っています。 

 そして、攻め、清史郎。
 短編では、もう少しかっこよい感じだったのですが、長編に再編成して、物語が進むうちに、どんどんヘタれ化してしまいました。
 清史郎はかっこいいので恋愛慣れしているように見られがちですが、実は色恋が苦手なキャラ。
 春海以前に性経験はありますが、初めての恋人は春海という裏設定の持ち主です。
 
 オメガバースという世界観の特徴はいろいろありますが、今回は、「運命の番」を特に有効活用しました。

 理屈じゃない恋。
 ビビビと感じる恋。

 清史郎と智秋は、18歳と13歳の時、互いにそれを感じたのですが、いかんせん、早すぎました。

 清史郎視点がないので、いまいち彼に感情移入しにくいですが、そのあたりは第8話「自覚」で清史郎の独白で表現したつもりです。

 春海にも「諦めよすぎじゃん!」と思われた方もいるかもしれません。春海視点がないので恐縮ですが、運命の番はそれほど強い絆なのが、オメガバースだと思っていただければ、と思います。

 物語全体を通しては、出来の悪いオメガである智秋が、オメガ特有の苦難を乗り越えて、本当の愛を手に入れる過程を描いたつもりです。

 本来ならゆっくり連載したかったのですが、コンテスト締め切り当日までに完結させるために、ブログもエブリスタも強行軍で更新しました。

 完結後は、ブログ用SSと、エブリスタの応援特典用SSを追加しようかなと考えています。

 ブログでは、初の試みですが、パスワード付きの限定作品をやってみたいです。パスワードのお知らせ方法は思案中です。

 エブリスタはスター投下してくださった方への応援特典になるので、エブリスタのアカウントと指定のスター数がないと読書できませんが、もし興味がございましたら、覗いてみてください。

 今回、初めてコンテスト用に新作長編を書いて、正直精根尽き果てました。でも、続編がありそうな雰囲気を残しつつ、完結作品として仕上がったので、自己満足しています。 

 それとお詫びなのですが、かなり誤字脱字があるかと思います。
 エブリスタの方はほぼ修正済みですが、ブログは手付かずなので、追って訂正いたします。見苦しくてすみません。

(誤字脱字はご指摘いただいて修正しました。ありがとうございました)

 突っ走って書いたせいで、かなり疲労困憊しているので、完結後はペースダウンして、自分の好きな作品をのんびり更新します。

 エブリスタの『遠回りの恋』はコンテストのために更新中断していたのですが、ぼちぼち再開します。

 溺愛のSS以外にも、そろそろ「夜香蘭の雫」のその後、伊織と聖人の話も書かなきゃなと思ってます。

 来月で開設丸二年を迎える「醒めない夢」ですが、引き続きおつきあいくだされば、幸いです。
 
 
 
麻斗結椛




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Posted by麻斗結椛