清史郎、と或る夜の、独白。(ブログ限定公開)

麻斗結椛

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先日の
清史郎、と或る朝の、独白。(エブリスタ応援特典SS)
で書いた内容と重複しています。

「溺愛しすぎるデスティニー」は
エブリスタとブログで、同時連載したのもあって、
それぞれに特典SSを入れました。

エブリスタはスター5個投下で、
この作品の前編に該当する
「清史郎、と或る朝の、独白。」
という作品が読めます。

ブログは後編に該当しますが、
前編を読んでいなくても、
後編だけでお話が成立していますので、
安心してお読みくださいませ。

それではどうぞ(*^_^*)









「そういえば、先日、君の寝言を聞いたな」
「ええっ! 俺、なんて言ってた? 恥ずかしいなあ、もう」

 夕食をしながらの語らいの時。
 朝食は俺が作るが、それ以外の食事はハウスキーパーの小林さんに作り置きをお願いしている。
 目の前でぱくぱくおかずを運ぶ君。
 食が細いなりに、だんだん食欲が出てきた様子に、俺は胸をなでおろしている。

 君の話しぶりから、バイトが楽しい様子が伺えた。
 親友のハルトは夜の勤務ゆえに、一緒に働けないのが寂しいようだ。
 だが新しい友人が出来たみたいで、安心している。
 ただ心配なのは、君が友人だと慕う相手が、君に不埒な思いを抱いてしまうのではないか、ということ。
 しかし俺だって心得ている。
 過剰な嫉妬は君にうざがられるだけだと。
 だから心の中で思うに留めているのだが。

 君が意外と意外とおしゃべりだと、付き合い始めてから知ったよ。
 今も今日の出来事を事細かに俺に聞かせてくれる。
 恋人になってまだ数ヶ月。
 俺は愛しい恋人を、いまだ良く知らない。
 だから君が紡ぐ一言一句を聴き逃したくないと思っている。

 そういう意味で、寝言の詳細まで気になるのだ。

「俺の名前を呟いてたぞ」
「えー、マジで?」
「夢の中で、俺と何をしてたんだ?」
「えーっと……なんだっけ……?」

 数日前の夢の話だ。
 覚えていなくて当然なのに、上目遣いで必死に思い出そうとする君がいじらしい。

「無理に思い出さなくていい」

 鷹揚なふりをして、夢の中の自分にすら嫉妬しているなんて、みっともなくて絶対に口に出来ない。

「あー、なんか、ぼんやり思い出してきた……そうそう、清史郎さんと一緒に、公園みたいな緑がたくさんある場所で、お弁当を食べてる夢だったような気がする……」
「……ピクニックか?」
「そんな感じかな?」

 俺は密かに衝撃を受けた。
 俺達は、二人で外出をしたことがない。
 付き合いたての頃は、俺と君の生活サイクルが合わなかった。
 それに憎き北園に肩を刺されて以降は、俺がヤツの父親の会社への制裁措置であちこち駆けずり回っていたこともあって、智秋と遊ぶという概念がすこんと抜け落ちていた。

 なんという失態だ。
 もしかしたら智秋は俺とピクニックとやらをしたいのかもしれない。
 なぜ俺は、君が遊びたがっていることに、早々に気づいてやれなかったのだろうか。

「お弁当持って、動物園とか、すっごい楽しそうだよね。幼稚園の遠足以来、行ってないもんなあ。今更だけど、ちょっと行ってみたいかもー」
「今度の週末、連れていく」
「へ?」
「弁当は俺がこしらえるぞ。おかずのリクエストはあるか?」
「えっと……行かなくていいよ?」
「……なんでだ」

 智秋がびくんと震え上がるのが分かった。

「なんでそんな怖い顔するんだよ」
「……そんなつもりはない」
「くわって眉毛がつり上がってるもん。もう、怒んないでよう。ごめんってば」

 智秋が自分の眉毛の両端を指で釣り上げて、俺の顔真似をする。
 君の仕草の愛らしさに、胸がきゅんとしめつけられて、苦しい。

「俺は君に怒りを抱くことはありえない。あるとすれば、自分自身に対してのみだ。それより、なぜ行かなくていいなど、つれないことを言うんだ。俺は君の願いを叶えるのが生きがいだと、いつも言っているだろう」
「だってさあ、毎日遅くまで働いて忙しいのに、休みの日くらい、家でゆっくりしてほしいじゃん。子どもが行くような場所に、清史郎さんを連れていくなんて、申し訳なさすぎるよ。どうしても動物園行きたいわけじゃないんだから、清史郎さんには俺のために無理しないでほしいんだ」

 ああ。君はやはり優しい人だね。

「無理とかじゃないんだ。智秋。俺は、君と……その、デートがしたいんだ」

 今、気がついた。
 俺の願いは、いたってシンプルだ。 
 君と、デートしたい。

「ええっ?」

 つぶらな瞳をこれでもかと大きくする君。
 そんな意外だと言わんばかりの顔をしなくてもいいのに。

「考えてみたら、俺たち、デートらしい外出をしたことがないと思わないか?」
「そうだけど……俺、清史郎さんとデートなんて、全然考えたこともなかったから」
「……ダメか?」
「あ、いや、ダメとかじゃなくて……ほんと、いいの?」
「ああ。ぜひ君をデートに誘いたい」
「あ、うん、じゃあ、お願い、します」

 君はぺこんと頭を下げる。
 その頬はまた愛らしい桃色に染まる。

「なぜそんなに恥ずかしそうなんだ」
「俺、誰かと付き合うのって清史郎さんが初めてだし、デートとか、したことないから……なんか、恥ずかしくて……」
「そうか」

 君の初めての相手になれて、とても光栄だ。
 君を今後手放すことはないから、君のこれからの初めても全て俺が、一緒に経験させてもらうよ。

「明日、さっそく弁当の本を購入してこなければ。美味しく見栄えの良いのを作るようがんばらなくては」
「俺も手伝うからね!」

 君の提案に、俺の箸を動かす手が一瞬止まった。
 感情を悟られてはならない。
 できるだけ平常心を装い、答えた。

「……ありがとう、智秋。だが君の手を煩わすほどではない。俺に任せて君はのんびりしていなさい」
「えー、俺も役に立ちたいよー」

 君の手先は、あまり器用ではない。
 以前、どうしても手伝いたいと駄々をこねるので、一度だけ君に包丁をもたせたことがある。
 しかし、トマトを切ろうとしては、つるりと包丁を滑らせるし。
 キャベツの千切りではいつか指を切るのではないかとひやひやさせられるし。
 俺の根性が足りず、さりげなく包丁をとりあげた……。

「分かった」
「へ?」
「少しずつ料理を練習しようか」
「いいの?」
「ああ」
「やった、嬉しい。そのうち朝食当番は俺だからね!」
「楽しみにしてるよ」

 智秋をどろどろに甘やかしたい。
 だがそれだけではだめなのも、分かっている。
 俺がいないと生きていけないようにしたい反面、俺がいなくても大丈夫であって欲しいのだ。
 むしろ君がいないとだめなのは、俺のほうで……。

「……どうしたの? 目がかゆい?」
「いや、なんでもない」

 こぼれそうになる涙をごまかして、指先で涙を拭った。バレなくてよかった。
 君がいなくなったらどうしよう、と空想だけでうるっときたなんて、どうして言えるだろうか。

「へんなの、清史郎さん……うっ!」

 智秋が突然立ち上がり、ダイニングテーブルを離れた。

「智秋?」

 ただならぬ気配に、俺も慌てて後を追う。
 智秋はトイレに駆け込んだ。
 鍵をかけられてしまっては、手が出せない。
 お腹が痛くなったのだろうか。
 
「智秋! 大丈夫か!」

 返事はなく、代わりに聞こえるのは、嘔吐の音だ。

 食あたりか?
 俺と智秋は、朝食と夕食は同じものを食べている。
 昼食は何だったのか。
 まかない飯のメニューを、店長のスバルさんに確認しなければ……。

 心配でも、俺にできることはなく、しばらくトイレの外に立ちすくんでいた。
 しばらくして、かちゃりと内側から鍵をあける音がして、智秋が出てきた。
 
 君の顔はとても青ざめている。

「……智秋、大丈夫……」
「清史郎さん……もしかしたら、俺、子ども、出来たかもしれない……」

 俺の言葉に被せ気味に、智秋が告白した。
 俺と智秋の、子ども。

「どうしよう」
「なにがだ?」
「俺、子ども、産むの怖いよ……」
「何も怖いことなど無い。俺が側にいるじゃないか」
「清史郎さん……」
「ありがとう。智秋。今、俺がどれだけ嬉しいか、分かるか?」

 君は中腰になっている俺の頬を、可愛らしい両手でそっと包んでくれた。

「よく分かる。だって、清史郎さん、幸せそうな顔で、泣いているんだもの。清史郎さんって、意外と泣き虫さんだよね」
「すまない」

 智秋にはみっともない自分をさらけ出している。
 隠し事など一つもない。
 智秋が妊娠した。
 俺はこんなに幸せでいいのだろうか。

「智秋。俺は頼りないかもしれないが、全力で君を幸せにするから……どうか俺と結婚してほしい」
「全然ロマンチックじゃないなあ。俺、吐いた後で口臭いし、トイレの前だし」
「空気が読めなくて、本当にすまない。だが君の息は全く匂っていないよ」
「ああ、もう、清史郎さんって、困っちゃうくらいに、俺が好きなんだね」
「ああ。大好きだ。だが困らせているなら」
「たとえだよ。俺も清史郎さん、大好きだよ」
「ありがとう。それより君は、俺と結婚してくれるのか。答えを聞かせてくれ」

 だが君は言いよどみ、イエスと言ってくれない。

「……あの、清史郎さんのお家のこと……」
「俺の家? ……ああ、両親のことか? それより、智秋、おいで」

 智秋の顔色はまだかなり悪い。
 なのに立ち話を続けている俺は、本当に鈍くて、気の利かない男だ。
 君を抱きかかえ、洗面所に行き、口をゆすがせる。
 それからリビングに行き、ソファに君をそっと寝かせた。 

「話の続きだが……君は俺の家のことを気にしているんだな」

 智秋が小さく頷く。

 アルファがオメガと結婚するのは、二人の間に出来た子どもがアルファである場合に限定される。
 法律で禁止されているのではなく、それが世間一般の常識だ。
 そして南條家はいわゆる名家と言われる血筋で、ゆえに相手のそれにもかなりうるさい。
 だから俺の相手が誰であれ、一族が黙っていないのは分かっている。
 しかし外野が騒いでも、少しも俺に影響を与えないんだ。 

「君との間に子どもが生まれようが生まれまいが、またその子の種がなんであっても、結婚するつもりでいる。だから、君が俺の家のことで心を砕く必要はは一切ない」
「でも、兄ちゃんを番にしないで妊娠させなかったのは、お家がうるさいからでしょう? 兄ちゃんみたいな美形で優秀な人ならきっと認めてくれたのに、俺みたいなみそっかすじゃあ、きっと無理に決まってる。だから、清史郎さん。無理に結婚しなくてもいいんだよ?」

 俺は岩に頭をぶつけたくらいの衝撃を、智秋の言葉にくらった。

「え……清史郎さん……? なんか、顔色悪い……」

 とっさに返事すら出来ず、俺はさっと顔を背けた。

「お、俺は……君に……プロポーズを断られたのか……?」
「ええっ! ち、違くて……な、泣かないでよ」

 智秋がおろおろ慌てているのが分かっていても、涙が止まらない。
 ああ。愛する人に拒絶されるとは、これほどまでに辛いものなのか。
 春海の気持ちを分かったふりで、ちっとも分かっていないことに今、気がついた。
 春海。俺は本当に君を苦しめた、酷い男だ。
 きっとこれは、おまえだけ幸せになることは許さないという、天罰にちがいない。

「……すまない。大人げなく、涙をこぼして……」
「ねえ、清史郎さん。俺、プロポーズ断ったんじゃないよ」
「だが」
「俺さ、清史郎さんに、無理して欲しくない。俺のために、その、勘当されてもいいとか思ったりしてるよね?」
「それは最終手段だ」
「やっぱり……」

 君がはあっと呆れ顔になる。

「こんな不甲斐ない俺は、やはり君にはふさわしくないだろうか」
「あのさ、むしろふさわしくないのは、俺の方だからね」
「またそんなことを……どうして君は……」
「俺じゃあだめなんだよ。兄ちゃんの足元に及ばなくても、清史郎さんのパートナーになる人は、ちゃんとしてなきゃいけないんだってこと、それくらい俺にだって分かるよ。だからさ、結婚うんぬんの前に、俺、清史郎さんのお父さん、お母さん、あと、お姉さんに、ちゃんと気に入られたい」
「智秋……」

 君の強さに脱帽した。
 見た目はこんなにも華奢でか弱いというのに、心はそれを裏切るように、たくましい。
 俺の気づかぬ間に、君はどんどん素敵な男性に成長しているのだな……。
  
「分かった。プロポーズの答えは保留にしてくれていい。俺は君にふさわしい相手になれるよう精進する」
「……そんな張り切らなくても、今のままの清史郎さんでいいんだけどなあ。でも、ありがとう。あ、そうだ。俺、病院行って、ちゃんと検査してくるよ。間違いだったら困るし。先生、きっとびっくりするだろうなあ」

 俺は絶対に君と結婚する。
 勘当されるのは簡単だが、その方法は選択しない。
 なぜならそれが君の願いだからだ。
 

 the end




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Posted by麻斗結椛