天使の翼 02
※ ※ ※
あと少しで受験という時期になって、兄貴は塾通いを始めた。
両親は「やっと伊織がやる気になった。これも聖人くんのおかげ」と手放しで喜んでた。
放課後、俺は友だちとの外遊びを早々に切り上げて家に帰る。
日が短くなったのも理由だけど、それだけじゃない。
「ただいま!」
「おかえりー」
居間から聞こえる呑気な声。
「聖人!」
どろだらけの靴下のまま、俺は廊下を走って、居間のふすまを勢い良く開ける。
炬燵にちんまり座っている聖人の可愛い顔が、俺を出迎えてくれるんだ。
この頃聖人は、兄貴がいなくてもうちに入り浸るようになっていた。
親父やおふくろも、我が子のように聖人を可愛がってたし、居心地が良かったんだろうね。
俺にとって、兄貴の不在はラッキータイム。
だって可愛い聖人を独り占めできるのだから。
真面目な聖人は、いつも勉強か読書をしていた。
「聖人、母ちゃんは?」
「おばさんは事務所でお仕事してるよ」
事務全般はおふくろが担っているから、締めの時期はかなり忙しい。
キッチンテーブルの上には、ラップをした夕飯が並べてある。
自分でチンして食べろってことか。
「やった。聖人、ゲーム! ゲームやろうぜ」
おふくろは元ヤンのくせに、俺には勉強しろとかなりうるさい。
どうせ後で怒られるのは分かっているけど、ゲームの誘惑に勝てないんだよね。
「健くん、宿題、まだしてないよ」
俺は宿題をサボりがちだった。
宿題をしないまま学校に行くと、昼休み、罰として体育館の片隅でみんなが遊ぶ姿を見せられながら、サボったプリントをさせられると分かっていても、だ。
聖人は厳しい。
やるべきことをやらないと、俺にゲームをさせてくれないんだよ。
「後でするからさあ。なあ、ゲーム、しようよ。マ◯オの新しいの、こないだ買ったんだぜ」
聖人はうちに来るまで、ゲーム機で遊んだ経験がなかったらしい。
それを聞いた時、俺は相当びっくりしたんだけど、俺が手取り足取り教えてやってる。
この時ばかりは、俺が聖人のお師匠さまだぞって威張れるんだ。
「……だめだよ。宿題のプリント持っておいで」
あ。ちょっと間が開いた。
聖人もゲームしたいんじゃん。
でもすぐに切り替える。
聖人って、ほんと、クソ真面目だよなあ。
「ゲームより僕と一緒に宿題やろうよ、ね?」
小首をかしげる聖人は、クラスの女子なんかより百倍可愛い。
発言内容は厳しいけど、言い方が優しいから、ふわっと耳に届く。
同じお小言をおふくろに言われても反発しちゃうけど、聖人だとなぜか素直に言いなりだ。
「ふえーい、わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
俺はふてくされながら、聖人の斜め向かいに座って、おとなしく算数のプリントを解き始めた。
俯いたまま、こそっと上目遣いで聖人を伺う。
英語の教科書を見ている聖人は、小さな声で書かれているテキストを読み上げている。
うわあ、長いまつげ。くるんって先が丸まってるよ。
鼻はあんまり高くないんだよなあ。でも小ぶりで可愛い。
そして何より注目すべきは、口元なんだ。
男にしては小さなサイズ。さくらんぼみたいな綺麗な赤色。ぷるんってしてる。
これで男って、詐欺だよなあ。
本当は女じゃないのか?
すぐに集中力が切れる俺は、聖人を盗み見してうっとりしていたら、聖人がこちらを見てぎくっと肩を竦めた。
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あと少しで受験という時期になって、兄貴は塾通いを始めた。
両親は「やっと伊織がやる気になった。これも聖人くんのおかげ」と手放しで喜んでた。
放課後、俺は友だちとの外遊びを早々に切り上げて家に帰る。
日が短くなったのも理由だけど、それだけじゃない。
「ただいま!」
「おかえりー」
居間から聞こえる呑気な声。
「聖人!」
どろだらけの靴下のまま、俺は廊下を走って、居間のふすまを勢い良く開ける。
炬燵にちんまり座っている聖人の可愛い顔が、俺を出迎えてくれるんだ。
この頃聖人は、兄貴がいなくてもうちに入り浸るようになっていた。
親父やおふくろも、我が子のように聖人を可愛がってたし、居心地が良かったんだろうね。
俺にとって、兄貴の不在はラッキータイム。
だって可愛い聖人を独り占めできるのだから。
真面目な聖人は、いつも勉強か読書をしていた。
「聖人、母ちゃんは?」
「おばさんは事務所でお仕事してるよ」
事務全般はおふくろが担っているから、締めの時期はかなり忙しい。
キッチンテーブルの上には、ラップをした夕飯が並べてある。
自分でチンして食べろってことか。
「やった。聖人、ゲーム! ゲームやろうぜ」
おふくろは元ヤンのくせに、俺には勉強しろとかなりうるさい。
どうせ後で怒られるのは分かっているけど、ゲームの誘惑に勝てないんだよね。
「健くん、宿題、まだしてないよ」
俺は宿題をサボりがちだった。
宿題をしないまま学校に行くと、昼休み、罰として体育館の片隅でみんなが遊ぶ姿を見せられながら、サボったプリントをさせられると分かっていても、だ。
聖人は厳しい。
やるべきことをやらないと、俺にゲームをさせてくれないんだよ。
「後でするからさあ。なあ、ゲーム、しようよ。マ◯オの新しいの、こないだ買ったんだぜ」
聖人はうちに来るまで、ゲーム機で遊んだ経験がなかったらしい。
それを聞いた時、俺は相当びっくりしたんだけど、俺が手取り足取り教えてやってる。
この時ばかりは、俺が聖人のお師匠さまだぞって威張れるんだ。
「……だめだよ。宿題のプリント持っておいで」
あ。ちょっと間が開いた。
聖人もゲームしたいんじゃん。
でもすぐに切り替える。
聖人って、ほんと、クソ真面目だよなあ。
「ゲームより僕と一緒に宿題やろうよ、ね?」
小首をかしげる聖人は、クラスの女子なんかより百倍可愛い。
発言内容は厳しいけど、言い方が優しいから、ふわっと耳に届く。
同じお小言をおふくろに言われても反発しちゃうけど、聖人だとなぜか素直に言いなりだ。
「ふえーい、わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
俺はふてくされながら、聖人の斜め向かいに座って、おとなしく算数のプリントを解き始めた。
俯いたまま、こそっと上目遣いで聖人を伺う。
英語の教科書を見ている聖人は、小さな声で書かれているテキストを読み上げている。
うわあ、長いまつげ。くるんって先が丸まってるよ。
鼻はあんまり高くないんだよなあ。でも小ぶりで可愛い。
そして何より注目すべきは、口元なんだ。
男にしては小さなサイズ。さくらんぼみたいな綺麗な赤色。ぷるんってしてる。
これで男って、詐欺だよなあ。
本当は女じゃないのか?
すぐに集中力が切れる俺は、聖人を盗み見してうっとりしていたら、聖人がこちらを見てぎくっと肩を竦めた。
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