天使の翼 07

麻斗結椛

-
 彼を視界に捉えた途端、俺の目からぼたぼたと涙がこぼれた。

「聖人……? 本当に、聖人なの?」
「僕だよ。健くん、久しぶり。大きくなったね」

 変わっていない。いや、すごく、変わった。
 俺の中の聖人は、十三歳のままだ。
 あれから八年も経っているというのに、愛らしさはそのままで、とてつもない美人になっている。
 男に見えない。でも女でもない。
 一体なんなんだよ、聖人ってやつは。

 感極まって聖人に抱きついた。
 小さくて、細い、聖人。
 子どもの頃は、見上げていた聖人が、一八五センチまで伸びた俺の腕の中にすっぽり収まっているなんて、信じられない。

「俺、ずっと聖人に会いたかったんだ。会いたかったんだ」
「うん。僕も健くんに会えて、すごく嬉しいよ」

 感動の再会だ。なのに。

「健、てめえ、汗臭え体でいつまで聖人に抱きついてんだ。さっさと離れろ」

 兄貴がぶち壊してくるものだから、かちんときた。

 そんなに聖人が好きなのかよ。
 俺だってな、俺だってな、聖人、好きなんだぞ!

「うるせぇ、自分が聖人に抱きつけないからってヤキモチ妬いてんじゃねぇよ」
「んだと、てめえ」

 兄貴に睨まれても、聖人を離さないでいると、無理やり引き剥がされて、ますますむかついた。

「何すんだよっ、伊織」
「うるせえ!」

 兄貴が拳を上げるのが見えた。
 なんだ、やるのか。上等じゃん。
 俺が防御に入った時だった。
 聖人が俺に背中を向けて、兄貴と俺の間に急に割り込んできたんだ。
 兄貴は驚いて、すんでのところで拳を止めた。

「何だよ、危ねえじゃねえか、聖人。退け」
「健くんを殴らないであげて、伊織くん。健くん、まだ小さいんだよ!」

 聖人は兄貴の脅しにも負けずに、両手を広げて、兄貴に立ち向かっていた。

 もしかして俺、守られてる?

 頭一つ分小さい聖人越しに、兄貴の呆気に取られる顔があって、思わず目が合って。

 そして同時に吹き出した。

「何で笑うんだよ! 僕、喧嘩して欲しくないから」

 聖人は必死に喧嘩を阻止しようとしたのに笑われて憤慨した。
 だけど兄貴はお構いなしに腹を抱えて笑っている。

「だ、だってよ、健が小さいって。こいつこんな図体でけえのに。おかしくてたまんねぇ」

 だけど俺はそれ以上笑えなかった。

「聖人、庇ってくれてありがとな。でも昔と違って喧嘩だってスポーツだって、伊織に負けない自信があるんだよ?」
「そうなの……?」

 聖人の中では、いくら俺がでかくなっても、十歳のままだ。
 あの頃、俺を弟のように可愛がってくれていた優しさを垣間見て喜んだ反面、弟以上の存在にになれないんだと痛感した。

 それでもかまわなかった。
 俺は二度と会えないと思っていた聖人に会えて、本当にうれしかったから。




ランキングサイトに参加しています。
クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
拍手をいただけると大変嬉しいです。




関連記事
Posted by麻斗結椛