天使の翼 08

麻斗結椛

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 ※ ※ ※



 翌週、麻里奈にフラれた。
 まあ、当然といえば、当然だ。
 カノジョを放置して帰ったんだから。
 フラれる理由として立派に成立すると思う。
 ごねることなく、あっさりフラれたものだから、麻里奈がますます不機嫌になってたけど、もうカノジョじゃないから関係ない。

 そんなことより、俺は気になることがたくさんあった。

 八年間疎遠だったのに、なんで急に兄貴は聖人と再会したんだ?
 どうしていきなりうちに連れてきたんだ?
 そして、兄貴は聖人をどう思っている?

 たぶん、恋愛という意味で好きなんだろうな。
 それは聞かなくても分かる。
 だって俺も聖人を好きだったから。
 兄弟で同じ人、それも同性を好きになるなんて、ありえないよなあ。
 聖人、おそるべし。
 
 次に聖人に会ったのは、俺が高校三年生に進級した五月のことだった。
 澄玲は保育園に通っているんだけど、運動会に聖人を招待したらしい。
 この時の聖人も、すこぶる可愛かった。
 昼休憩の時、澄玲と俺とで、聖人の取り合いをしたっけ。
 俺もけっこうイケてるほうだと思うんだけど、十三歳の頃から変わらず、聖人は兄貴ばかり視線で追いかけていた。
 
 もしかして、聖人も兄貴を好きなんじゃね?

 女性よりも美人な聖人に、はっきり言って女性の恋人は、似合わない。
 これは俺の勘だけど、聖人もきっと兄貴を恋愛の意味で好きだ。
 本人は気づいていないだけかもしれない。
 兄貴を見る聖人の瞳は、昔は憧れだけを雄弁に語っていた。
 だけど大人になった今、そこに切ない恋情が含まれているような気がしたんだ。


 ※ ※ ※



 運動会から三ヶ月後、兄貴と聖人が同居を始めた。
 まさかの急展開に驚き、さすがに兄貴に尋ねた。

「なんで伊織んちに聖人が転がりこんでるんだよ」
「あいつ、訳ありで宿無しなんだ」
「なんだよ、それ」
  
 聖人は一緒に暮らしていた恋人と別れて、行き場がないのだという。

 この時も俺は「聖人の別れた恋人って、男じゃないのか?」という言葉を飲み込んでしまった。
 センシティブな話題だから、安易に口に出来ないじゃないか。

「弱みに漬け込んでるのはわかってる。だけど善人ぶってこのチャンスを逃すなんてまっぴらごめんだ」

 兄貴は本気で聖人を好きなんだ。
 全身全霊をかけて、聖人を手に入れようと必死だ。
 俺の好意とは覚悟が違う。

 兄貴、すげえな。口にはしないけど、尊敬するぜ。

「大丈夫だよ。聖人もきっと伊織を好きだよ」
「……おまえ、聖人、好きなんじゃねえの?」

 柄にもなく兄貴を応援するような台詞を口にしたら、兄貴に怪訝そうな顔をされてしまった。
 俺はこの時気がついた。
 聖人はすでに俺にとって初恋の思い出なのだと。
 だけどはっきり兄貴に言うのもシャクなので、ちょっとだけ意地悪してやった。

「好きだよ。だって昔と変わらず可愛いし、優しいじゃん?」
「てめえ」

 冗談なのに、俺を本気で睨む兄貴が可愛い。
 兄貴の弱みを知ったようで、ウキウキする。



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Posted by麻斗結椛