天使の翼 09

麻斗結椛

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「それより、伊織、女関係、大丈夫か?」

 兄貴は瑠璃ちゃんと別れた後、再び何人かの女と付き合っていた。
 スマホで話している相手が女かなと思わせる場面に、俺は時折遭遇して、なんとなく察していた。
 
「全部切った」
「マジ?」
「さっき、おまえ、聖人が俺を好きだって言ったけど、そんなことないんだ。俺はあいつの眼中にも入ってない。だから俺は聖人に振り向いてほしくて、みっともないくらいに必死だ。女切るくらいじゃ、全然足りない。あいつは別れた恋人をまだ愛しているからな」

 聖人、恋人にフラれたとかじゃなくて、別れざる得ない状況に追い込まれたんだ。
 聖人って、いろいろ面倒なことを背負ってそうだもんなあ。
 美人薄幸っていうの?

 兄貴の自嘲気味に苦笑いする表情に、弟の俺でもかっこいいと見惚れる。
 めちゃくちゃ女にモテるくせに、なんであえて同性との恋愛という茨の道を選ぶんだろうか。

「どうして聖人にこだわるんだよ」
「十五で出会ってから、ずっとあいつが忘れられない。結婚しても、他の女を抱いても、聖人じゃないとだめだと気付かされるばかりなんだ」

 この時、兄貴たちの離婚の根本原因が、すとんと理解出来た。
 瑠璃ちゃんは兄貴の気持ちに気付いてたんだ。
 澄玲のために二人は共に生きることにしたけど、愛があるようでない生活は互いに四年が限度で。
 浮気した瑠璃ちゃんは確かに世間からみたら非難の対象だ。だけど瑠璃ちゃんだけが悪いんじゃない。
 兄貴は結婚後も、胸の奥底に聖人への恋の火種をずっと燻らせ続けていたんだから、同罪だ。
 
 この年の夏から、兄貴、澄玲、そして聖人の奇妙な共同生活が始まった。


 ※ ※ ※

 麻里奈にフラレてからお気楽フリーだった俺だけど、夏休み直前、再び突然カノジョが出来た。
 塾で知り合った他校の女子で、名前は千穂。
 取り立てて美人じゃないけど、性格が穏やかで雰囲気が可愛い。
 告られる直前まで、普通に友だちで、好かれてるなんて、ちっとも気づいていなかった。
 向こうががちがちに緊張しながら告ってきて、断るのがなんだか気の毒で、ついOKしてしまった。

 毎年恒例の夏祭りは、千穂と一緒に行く約束をした。

 だけど、澄玲から「聖人、浴衣着るんだよ」という情報をリークされて、ぐらぐら揺れた。
 非情だけど、千穂との約束を反故にしたいくらい、聖人と一緒に花火に行きたかった。
 カノジョと聖人。
 比較する対象じゃないのに、俺の好意メーターはいつも聖人寄りにぐんっと振り切れてしまう。
 でも聖人を兄貴から奪いたいほど好きかと言われると、違うのだけれど。

 聖人の浴衣姿は鼻血ものにやばかった。

「マジ可愛い! やっぱ思ってたとおりだ。聖人、最高!」

 俺が手放しに褒めると、聖人が「あ、ありがと……健くん……」とはにかむものだから、つい「なあ、一緒に花火見に行こうよ」と誘ってしまった。

「てめえ、女と行くんじゃねえのかよ」
「あ! なんで聖人の前で言うんだよ! 馬鹿兄貴!」

 聖人をチラリと見た。

「健くん、カノジョいるんだ。いいねえ」

 微笑ましく頷かれて、がっくりした。
 脈無しはむしろ俺の方だから。安心しなよ、兄貴。
 兄貴は俺をじとっと睨んでいるけど、勝手に嫉妬させておこう。ざまあみろ。




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Posted by麻斗結椛