天使の翼 10

麻斗結椛

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 聖人の艶姿に後ろ髪を惹かれながら、俺は千穂との待ち合わせ場所に急いだ。
 人混みできょろきょろしている千穂を見つけたけど、声をかける前に、彼女が俺に気づいた。

「浜田くん!」

 千穂は浴衣を着用し、髪をアップにして、いつもより数倍可愛らしく仕上がっていた。

「千穂ちゃん、浴衣、すごくよく似合ってるね」
「そんなことないよ。でも初めてのデートだから少しだけ気合いれたかも。浜田くんもかっこいいよ」

 そっか。これ、デートか。それも初めての。

「俺、普段着だぜ?」

 Tシャツにハーパン。
 コンビニにちょっと行ってくる、くらいの軽装。
 あまりの気負わなさが却って申し訳ない。

「ううん。自然体の浜田くんがすごく好きだから」

 頬を染める千穂はとても可愛い。
 やっぱり俺は女の子が好きなんだと思う瞬間だ。
 彼女と手を繋いで、花火観覧のベスポジである市民公園内の小高い丘を目指して、歩き出した。
 
 去年は麻里奈じゃない元カノと花火を見たっけ。
 そう言えば、俺、毎年違うカノジョと花火見てるな。
 ということは一年続いてないってことか。
 
 そんなことをぼんやり考えていると。

「浜田くん、すごく綺麗な男の人がいる」
「え?」

 千穂の声にはっと我に返った。

「ほら、前を歩いている、浴衣の人。隣の人も芸能人かモデルみたいでかっこいい。ちょっと浜田くんに似てるかも」

 重なる人混みの隙間から、少し先に見えたのは、兄貴と聖人だった。
 かっこいい方の男が俺の兄貴だと、千穂が気づいていないことにほっとした。
 気づかれたら話しかけなくちゃいけなくなる。
 それは避けたかった。

 一緒にいるはずの澄玲がいない。
 たぶん瑠璃ちゃんに託したんだろう。
 二人は手を繋いでいるわけでもないのに、男友達だと言い逃れ出来ない、親密な雰囲気を漂わせていた。

「あの人たち、絶対付き合ってるよね。仲が良さそうでいいなあ」

 俺は千穂の反応にぎょっとして、じっと彼女を見つめた。
 俺の凝視に驚いて、千穂がしまったという顔をした。

「な、なに? 私、なんか変なこと、言った?」
「いや、そうじゃなくて、千穂ちゃん、男同士とか、平気なの?」

 千穂はこくんと頷いた。

「互いに葛藤があって大変だと思うけど、それを乗り越えて結ばれた愛ってすごく強力だし、そういうのがうらやましいなって思う。私は浜田くんとそうなりたい。だから好かれるように努力したいの」
「千穂ちゃん」

 えへへと照れ笑いする千穂は、すごく可愛い。
 だけど。

「私は浜田くんを好きだけど、浜田くんにとって私はまだ友人以上の存在ですらないから。これから好きになってもらえるとうれしいなあ」

 女の子にここまで言わせておいて、俺は何も言えなかった。



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Posted by麻斗結椛