天使の翼 11

麻斗結椛

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 兄貴と聖人は、俺に気付くことなく、茂みに消えていった。
 俺は二人を見送ると千穂の手を引いて、兄貴と鉢合わせしない方向にしばらく歩いて、眺めのよさそうな場所を見つけた。

 しばらくして花火が始まった。
 この日は快晴で微風。絶好の花火日和だ。
 蒸し暑い夏の夜空に綺羅びやかな華が咲いて、続く音がどんと腹に響く。それの繰り返し。

 千穂が何気なく口にした、葛藤を乗り越えた愛という言葉が、妙に心にひっかかった。

 兄貴は聖人を好きだという事実に苦しんだと思う。
 もがき苦しみ、それでも断ち切れない思い。
 
 俺の隣では千穂がきらきらした眼差しで夜空を見上げている。
 その横顔は可愛いと思うけど、それ以上に思えない。

 俺も兄貴みたいな、激しい恋がしたい。 

 千穂とは難なく手をつなげるし、きっとキスもできる。
 だけど俺はきっと千穂を好きにならない。
 そう断言できた。

 今までたくさんの女の子と恋愛してきて、相手は俺を本気で好きでいてくれたけど、俺だけが本気じゃなかった。
 これって女の子に失礼じゃないかと、ようやく気づいたんだ。

 花火が終わり、千穂を家まで送った。

「友だちに戻りたい」

 無情だと思うけど、はっきりと別れを告げた。

「無理して付き合ってもらって、私のほうこそごめんね。短かったけど浜田くんのカノジョになれてうれしかったよ」

 やはり千穂はいい子だった。
 笑顔で俺のわがままを聞いてくれて。
 今まで歴代のカノジョに言われたことのない健気な台詞に、俺は不覚にも涙しそうになった。

 千穂ならすぐにいいヤツが見つかるよ。
 なんて、俺に言われたらムカつくだろうから、言わないでおく。

「塾ではまた普通に話してくれる?」
「もちろん。こちらこそよろしく」

 本気の恋に出会えるまで、今度こそ恋愛を封印しようと思ったんだ。


 ※ ※ ※


 それから季節はすぐに秋になり、聖人は親父の伝手で就職が決まった。
 気がつけば地元が聖人の活動拠点になっていた。

 兄貴と聖人の様子を伺っていると、仲がいいのは分かる。
 だけど、恋人への道のりはなかなか険しそうだ。
 聖人だって兄貴を好きだと思うけど、なかなか頑固そうだしな。

 兄貴、がんばれよと、心の中でエールを送った。
 

 ※ ※ ※


 十二月に入ってすぐのことだ。
 夕方、仕事上がりの兄貴が、俺の部屋を訪ねてきた。

「勉強中に悪いな」
「いや、いいけど、何だよ」

 礼儀正しすぎる兄貴にめちゃくちゃ引いたけど、文句を言わずに部屋に入れた。
 もともとこの部屋は兄貴が中学卒業するまで使っていたから、懐かしそうに部屋の中を見渡している。
 兄貴は汚れた作業着のまま、俺のベッドに腰を下ろして、両手を膝の上に置いて、しばらく黙っている。

 どうしたんだろう、と思っていると。

「俺、聖人と付き合うことになったから」
「え?」
「聞き直すんじゃねえよ、聞こえてるくせに。何度も言わせんな、ボケ」
「ま、待って。マジで?」 

 聞き直したのは意地悪でもなんでもなくて、気が動転したからだ。



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Posted by麻斗結椛