天使の翼 12

麻斗結椛

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「聖人も伊織を好きだってこと?」
「悪いか」
「悪くないよ。両思いってことだろ? よかったじゃん。おめでとう!」
「お、おう……」
 
 目を逸して頬を染める兄貴。
 聖人にほんとベタ惚れなんだな。
 
「おまえに言っておく」
「何?」
「今後一切聖人にちょっかいだすな」
「伊織……」
 
 俺がしょっぱい顔をしているのがわかったんだろうな。

「なんか文句あんのか」とガン付けられる。 
「聖人は俺の初恋の人だからつい甘えちゃうけど、兄貴みたくこじらせてないし、邪な思いとか一切ないから安心しろよ」 

 兄貴は黙っている。こじらせて、という言葉が図星なのだろう。

「聖人は兄貴みたいなもんかな。あんな可愛い兄貴がいるとか、超自慢できるよな」

 言葉にしてみてあらためて、初恋はすでに昇華していると再認識した。
 
「だったらいい」

 話はそれだけだと言わんばかりに、兄貴はさっとベッドから腰を上げて、部屋から出ていこうとした。

「伊織」

 兄貴がぶすっとした表情で振り向いた。
 俺を牽制したことが恥ずかしいのだろう。
 いつもおっかねえのに、この時ばかりは可愛く見えた。

「聖人と仲良くしろよ」
「ああ」
「あんまいじめんなよ」
「わかってる」

 兄貴は部屋を出ていき、俺はすとんと勉強机の椅子に腰を下ろして、机に頬杖をついた。

「二人は恋人同士かあ……」

 こじらせすぎた兄貴の初恋がようやく叶ってうれしい反面、喪失感が半端なかった。
 聖人とどうこうなりたいとかないし、もともと手が届かない存在だけど、ますます遠のいたみたいで、さみしいのかもしれない。
 
 兄貴は両親にも聖人との交際を明言しているのは、後でおふくろに聞いた。
 驚いたのは、兄貴が聖人を好きだと、だいぶ以前から知っていたことだ。
 同性同士という点にひっかかりを覚えないわけではないみたいだけど、相手があの聖人だ。
 両親ともに聖人大好きだから、無下に反対も出来ないんだろうな。
 それに兄貴が無理やり聖人を恋人にしたと思っている節があって、聖人に同情すらしている始末だ。
 
 兄貴、やっぱ報われねえ。かわいそうにな。
 どっちにしたって、兄貴は八年間恋焦がれていた人を、ようやく手にしたんだ。
 諦めないガッツを俺は尊敬するぜ!


 ※ ※ ※

 
 クリスマス前、推薦入試に見事合格して肩の荷が降りた。 
 推薦に落ちたら本試験を受けるために塾に通っていたが、推薦合格と同時に退塾した。
 千穂とはそれ以来会っていない。
 だけど今では彼女とはすっかり友だちで、たまにLINEで近況を教え合う仲だ。
 恋人から友人に関係をリセットして本当に良かった。
 あのまま付き合っていたら、本気じゃない俺に苛立ち、穏やかな千穂でさえも、歴代のカノジョみたいに嫉妬深く、わがままになっていたかもしれないんだから。
 元カノたちは俺のせいで性格が悪くなったんだよね。
 みんな、ごめん、と俺は元カノたちに心の中で反省し、謝罪した。



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Posted by麻斗結椛