天使の翼 14(最終話)

麻斗結椛

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 他意のない感想だった。
 なのに兄貴が恥ずかしそうに顔を赤くするじゃないか。
 最近の兄貴、ちょっとキャラ変しすぎじゃね?
 照れて頬を染めるとか、可愛すぎだろ!

「んなことねえよ」
「今日、澄玲って瑠璃ちゃんちに泊まるんだろ?」
「そうだけど、それがどうしたんだよ」
「聖人と二人で過ごせるから?」

 にやにやしながら俺は兄貴に耳打ちした。
 するといきなり頭にげんこつが降ってきたんだ。それも手加減なしの。

「いってえ! 何すんだよ!」
「てめえが変なこと言い出すからだろうが」
「ひでえなあ。俺、まじで、伊織のこと応援してるのに」

 俺はじんじん痛む頭を手のひらで撫でながら、ぶつぶつ呟いた。

「殴って悪かった」
「伊織?」
「今日見送りに行った聖人の知り合いって、あいつの別れた恋人なんだ」
「はあっ? なんだよ、それ」
 
 東京に越す元恋人にきちんと別れを告げたいと聖人に懇願されたという。
 元サヤに収まるのではないかという恐怖。
 だけど行くなと引き止めるのはプライドが許さない。
 兄貴は自分も付いていくことで折り合いをつけたらしい。

「聖人を信じてる。俺に自信がないだけだ。なさけねえけど」

 兄貴はビールを飲みながら、ぼそぼそと呟く。
 少し離れた場所にいる聖人と澄玲、馬鹿騒ぎする従業員らにはその声はきっと聞こえていない。
 俺は兄貴の言葉に集中した。

「でも行って良かった。聖人が前の恋を終わらせてくれたのを見届けられたからな」
「そっか」

 聖人ってすげえ。マジで魔性の男なんだな。
 モテ男の兄貴をここまでメロメロに惚れさせるんだもん。

 もう聞いてしまってもいいだろうか?
 我慢の限界だ。

「なあ、聖人の元恋人って、男?」
「俺、言ってなかったか?」

 ずっと聞きたいのを我慢してたのに、あっさり認めたので、拍子抜けした。

「男も女も関係ないからな。あいつは俺のだ。誰が相手でももう絶対手放さねえ」 
「その意気込みはわかったからさ、飲みすぎるなって。伊織、そんな酒強くないじゃん。今日勃たなくなっても知らねえよ」

 ぎろりと睨まれても怖くない。俺はぺろっと舌をだした。
 もう殴られないと分かっているからだ。

 この後、澄玲が瑠璃ちゃんに預けて、二人きりでいちゃラブなクリスマスを過ごすんだ。
 独り身の俺がちょっとくらい嫌みを言っても、バチはあたらないはず!

「パーパ! たけるとばっかり話してないで、すみれのとこに来て!」
「おう」

 兄貴は「心配してくれてありがとよ」と俺の肩をぽんと叩いて、聖人と澄玲のもとに向かった。

 ずっと聖人に抱っこされていた澄玲は、今度は兄貴の膝に座る。
 もらったクリプレは子ども用メイクボックスだ。

 澄玲は自慢げにひとつひとつのアイテムを兄貴に説明する。
 兄貴はそんな拙い澄玲の話に根気強く耳を傾けている。
 そして聖人は仲睦まじい親子を穏やかに見つめていて。

 そこにある三人の姿は、すでに家族だった。


 ※ ※ ※


 決して諦めず、努力と根性で恋い焦がれた相手を手に入れた兄貴をすごいなって尊敬するけど、でもなによりすごいのは、実は聖人かも知れない。
 だって、兄貴の八年越しの執念めいた恋情を、しっかり受け入れてくれたんだぜ。
 常人じゃない懐の深さだよな、まったく。
 聖人、マジで天使かもしれない。





 the end




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Posted by麻斗結椛