Melty Holiday

麻斗結椛

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11月11日は、#ポッキープリッツの日。
これをお題に、囁きシリーズ、真聡と恵でイチャラブ短編を書きました(*^_^*)


「ね、メグ。今日、何の日から知ってる?」

 休日の午後。スマホでだらだらネットを見ていた俺は、ふとある単語がやたら目について、隣に座る最愛の人、雪野恵に問うてみた。
 だけど彼は新聞に集中していて、俺の声が耳に入っていない。
 普段はコンタクトレンズを装着しているメグだけど、家では黒縁のカジュアルな眼鏡をかけている。

(真面目な横顔が可愛い……)

 つきあってもう五年も経つというのに、俺のメグを想う気持ちはこんこんと溢れて、止まる気配すらない。

「ん? 今、真聡、僕に話しかけた?」
「なんでもないよ。俺、コンビニ行ってくるね」
「僕も一緒に行くよ」
「いや、いいよ。一人で行くから。何か欲しいもの、ある?」
「特にないけど……」

 いつもメグと一緒に行動したがる俺が、一人で出かけるのが気になるのかな?
 メグが俺を不安げに見つめる様子に、ぞくっとする。
 年上のメグに頼られるのは、俺の自尊心をいたくくすぐって、いい気にさせるんだ。

「じゃあ、メグはお留守番してて。すぐ帰ってくるからね」

 三十半ばとは思えないなめらかな頬にキスを落として、同棲中の部屋をスマホだけ持って外出した。



 ※ ※ ※

「僕も一緒に行きたかった……」

 さっき言えなかったわがまま。
 独り言でようやく言葉に出来た。

 真聡、新聞に気を取られてたから、イヤになっちゃたのかな。

 僕は八つ当たり気味に新聞を乱暴に床に落としたけど、すぐに後悔し、拾ってラックに置いた。

 無理やり転職して、真聡を追いかけて同棲を初めて、もう半年以上経つ。
 真聡との仲は怖いくらいに、すこぶる順調だ。
 三十半ばの、とうのたったおじさんの僕を、ぴかぴかに若い真聡は「きれい」「可愛い」とこっちが恥ずかしくなるような美辞麗句で、毎日褒め称えてくれる。
 愛されているのだと、十分に伝わっている。
 だけど、僕のほうが何十倍も真聡を愛していて、甘えて、依存している。

 本当は、僕も一緒に行きたかったんだよ。
 でも君が一人で行くと言うから、無理強いして、嫌われたくない。
 仕事中離れているのは仕方がないと割り切っている。
 本音を言えば、すごく寂しいけれどね。
 よく二年間の遠距離恋愛を乗り切れたなって、自分でも不思議なくらいだよ。 
 遠恋に比べたら贅沢な悩みだけど、一緒に暮らし始めても、僕らの休日が重なることはレアだから。
 つい、君と一分一秒でも離れたくないって、わがままを言ってしまいそうになるんだ。


 ※ ※ ※


 今日はポッキーの日。
 お菓子の形態が数字の1に似ているという理由で、正式に日本記念日協会の認定を受けているらしい。
 さっき、暇つぶしに見ていたSNSには、この細い棒状のお菓子の写真が溢れていた。
 それを見て、思いついたんだ。

(メグとポッキーゲームがしたい!)

 ポッキーを両端から口に含んで、噛み進めて、チュウするかしないかっていうスリルを味わう、遊び。
 むかーし、大学一年の頃、酔っ払って仲間内でやった思い出が蘇る。
 野郎とのキスは、場が非常に盛り上がるんだ。
 相手が女の子だった時も、もちろんあるけどね。

 こんな子供っぽい遊び、きっとメグはしたことないだろうな。
 過去、たった一人の男性を十年もの間、一途に愛し続けるくらいの、超真面目人間なんだから。

 ポッキーゲームなんて、メグは興味ないよな。
 きっと「僕はいいよ」とか言って、断られるに決まってる。
 でも俺がおねだりしたら、きっとメグは「もう」とか言って、恥じらいながら受け入れてくれるだろう。

 だからいそいそとコンビニに来たわけで。 
 あまり立ち寄らない菓子コーナーに行くと、確かにいろんな種類のポッキーが並んでいた。

「うわ、思いの外、たくさんあるな。どれにしよ」

 定番のチョコ味以外に、ミルクチョコ、いちご、クラッシュアーモンドなど、この日ばかりはラインナップが充実している。クリスマスケーキみたいな感じか?

 どうせだからと、俺はひと種類ずつ、全部カゴに入れて、さっさとレジに向かった。
 


 ※ ※ ※



「ただいまー」
「……おかえりなさい」
「メグ、なんで元気ないの?」
「そんなこと、ない」
「ちょっと、来なさい」

 コンビニごときでわざわざ玄関まで出迎えてくれたメグ。
 彼の挙動不審は、声を聞かなくてもすぐに察知できる。
 俺の大事なお姫様は、すぐ不安定になるからな。

 手をひいて、俺らがいつもいちゃつくソファにメグを先に腰を下ろさせて、俺は足元に傅いた。

「どうした? 俺、なんかした?」

 俯いて首を横にふるメグは、恐ろしいほどに、可愛らしい。
 今年の春、ホテルマンから転職した芸能事務所では、所属タレントを何人も受け持つ、きりりとした敏腕マネージャーだと、誰が信じるだろうか。いや、こんな愛らしいメグは、俺しか知らなくていいんだけども。

「じゃあ、なんでメグはそんな元気がないの?」
「……で」
「え?」

 聞き取れなくて、メグの口元に耳を近づけた。

「僕を一人にしないで……」
「メグ?」
「僕、君が一人で行きたいって言ったコンビニにも、本当はついていきたかったんだ……。たまにしか一緒にいられないから、ひっついていたかったんだ。でもこんなの、重いよね。本当にごめんなさい」
「重くなんてないよ。言ってくれればいいのに」

 俺はびっくりした。
 ポッキーゲームをサプライズにしようと思って黙っていただけで、なんの他意もなかったんだから。
  
「でも、うれしいよ。メグ、俺のこと、ほんと好きだよね」
「うん。好き。大好き」

 ああ。メグから好きをいただいてしまった。
 なんて、幸せな休日。

「不安にさせてごめんね。メグ。違うんだ。これ、買いに行っただけだから」

 コンビニ袋の中身を、ソファの上に、ざざっと出した。

「ポッキー……こんなにたくさん」
「うん。今日ね、ポッキーの日なんだって。さっきネットで見てさ、一緒に食べたいなあって思って」
「そうなんだ」
「食べる?」
「うん」
「どれがいい?」
「えっと……これ」

 メグが指差したのは、定番の赤いパッケージのやつ。
 たくさん買ったけど、腐るものじゃないし、残りは備蓄しておけばいいだろう。 

 それよりもメグの機嫌が直って、ほっとする。
 怒ってたわけじゃないけど、愛しいメグにはいつも幸せな気持ちでいてほしいからな。

「ね、メグ、あーんして」

 従順な子どものように、メグが小さな口を開ける。
 そこに、ポッキーを差し込んだ。

「口閉じて。そのまま。噛んじゃだめだよ?」

 こくんと頷くメグに顔を寄せて、俺はポッキーの反対側を口に含んだ。

 メグが目を見開く。
 何をするんだ、と言わんばかりの驚いた顔に、俺は笑みが溢れる。

「ポッキーゲーム。知ってる?」
「……うん」
「もしかして、したこと、あるの?」

 知識はあっても、真面目な恵が経験者なはずがないと、たかをくくっていたが、まさか……。

「ないけど……真聡はあるよね」

 まさかの逆質問、それも回答前に断定されて、一瞬言葉を失う。
  
「えっと……はい。あります、けど」
「女の子でしょ?」
「でも、たいがい男ばっかだよ? くだらない遊びだもん」
「でも……真聡、かっこよすぎるから、きっとうれしかった男の子もいるよね……」
「いや! 断じてそれはないから!」

 俺はメグに会うまで、同性に恋愛感情を抱いたことは一度もないし、そういう意味で好かれたこともなかった。
 まあ同性愛の概念が抜け落ちていて、仮に好意を抱かれても、気が付かなかっただけかもしれないのだけど。
 だがそんな俺が、今や同性のメグ一筋っていうのは、ほんと、人生って分からないものだ。

「やきもち焼かれて、すっげえうれしいけど、分かってると思うけど、俺はメグだけだから。だからメグの初めてのポッキーゲームの相手、俺にさせて?」
「……どうしたらいいの?」

 すんなり受け入れてくれた。
 よほど俺の過去のポッキーゲームがお気に召さないようだ。
 可愛い、メグ。大好きだよ。

「ゆっくり両端から噛んでいくんだ……そう」

 メグの唇がゆっくり動き始める。
 俺も遅れて、同じようにした。
 恥ずかしいのか、目を伏せているから、視線は合わない。
 メグの動きは遅いけど、俺はかりかりとたくさん食べて、すぐに距離は縮まり、彼の愛らしい唇にたどり着く。

「んっ……」

 鼻から抜ける色っぽいメグの声。
 充満するチョコの香りが媚薬となり、俺らの情動を煽る。
 俺はたまらず、メグを抱き寄せて、ゲームは、いつしか本気な深い口付けに替わり、メグをソファに押し倒した。
 しばらくメグの唇を堪能して離れると、メグがとろんとした眼差しで俺を見ている。

「メグの初めて、もらっちゃった」
「なんだか、恥ずかしいよ、この、キス」
「照れるメグが見たかった俺としては、大満足だ。ありがとね、メグ」
「悪趣味だよ、真聡」
「俺の知らないメグがいるなんて、許せないからね」

 再びメグの唇に淡いキスを落とす。
 メグが俺の背中に手を回して抱きつく。

「真聡……」

 耳元で囁かれたメグの声は、チョコよりも甘くて、俺をとろとろに蕩かすんだ。




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Posted by麻斗結椛