なんて幸せな、ニューイヤーズ・イブ 1

麻斗結椛

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恋チョコ、年末御礼SS。
和也と聖人。教師x生徒。
恋人未満の二人が一緒に過ごす、年の瀬のお話。
全3話。



「うわ、橘、えらく着込んで。雪だるまみたいじゃないか」

 大晦日の、夕方のこと。
 玄関を開けて、僕を見るなり、広瀬センセイがぷっと笑った。

「だって寒波来ててものすごく寒いって、おばあちゃんが言うから……」
「だからって、着すぎだろ、いったい何枚着てるんだ?」

 いつもはクールなセンセイが、いつまでもおかしそうに笑っている。

 僕は寒がりで、おばあちゃんは超過保護。
 だから必然的に厚着をさせられる。
 たしかにダッフルコートはいつも以上に着ぶくれしてて、マフラーぐるぐる巻きで顔半分隠れてるし、毛糸の帽子で耳まで覆っているけれども。

 センセイの笑顔は見たいけど、みっともない僕を笑わないでほしい。

「だから家の近くまで、車で迎えに行くって言ったのに」
「だって……」

 センセイにわざわざ出向いてもらうのが申し訳なかったんだ。
 僕、センセイの、恋人じゃないし、好きでいるのを許されただけの存在……センセイ公認で絶賛片思い中なだけなのに。

 勝手にいじけて俯いていると、頭上からはあっとため息が聞こえてくる。

 僕、対応、間違ってた?
 迎えに来て欲しいって、言えばよかったのかな。
 子供っぽい意地をはって、呆れられちゃったのかな。
 だめだな、僕って。
 どんな反応を返すのが正解なのか、ちっとも分からない。

「橘。風呂敷包みとか、シブイの持ってるな」
「え? あ、そうだった」

 僕のループする心配をよそに、センセイの様子はいたって普通でほっとした。
 指摘されるまで忘れていたそれをセンセイに差し出した。

「祖母からです。おせち、センセイと食べなさいって。あ、あと、センセイにご迷惑かけてすみませんって言ってました」

 センセイはものすごく困った顔をした。

「……おせち、嫌いでした?」
「いや、そうじゃなくて」

 珍しくセンセイが言いよどんでいる。どうしたんだろう?
 じっと見つめていたら、再度、はあっとため息を吐かれてしまった。さっきよりも深くて悩ましげで、ますます切ない。

「無言の圧力か。そんなつもりはないが魔が差すかもしれないからな。さすがに保護者の信用を裏切れないし」
「え?」

 小声でボソボソ言ったので、よく聞き取れなかった。
 圧力? 信用?

「いや、まあいい。これはありがたくいただく。ほら、寒かっただろう。いつまで靴を履いている。早く脱ぎなさい」
「あ、すみません」

 センセイは、きょとんとする僕から包みをひょいと取り上げると、僕の背中を押して、リビングに進んだ。
 通された部屋はかなり暖かく、少し汗ばむくらいだ。
 センセイはさっさとキッチンに行ってしまったので、僕はあわてて重装備を解いて、後を追った。

「センセイ……今日は、お鍋ですか?」

 コンロの前に立つセンセイ。
 その手には菜箸が握られていて、せっせと具材をお鍋に入れていた。
 料理するセンセイ、かっこいいな。

「寄せ鍋だ。簡単なので悪いな」
「そ、そんな、とんでもないです!」

 センセイは自炊しない。いつも近所の定食屋さんで食べてるんだって。

 ふと赤い塊が視界に入って「……カニ」と呟いてしまった。

「ああ。昨日実家に寄ったら、もらったお歳暮の中にいくつかカニがあったから、一つくすねてきた」
「くすねてって、……怒られませんか?」
「ははっ、なくなってるのも気づいてないよ。うちの親は」

 詳しくは知らないけど、センセイのお家はお金持ちらしい。
 カニをお歳暮にもらうなんて、すごいな。

「橘は、カニ、好きか?」
「……たぶん」

 本物のカニは食べたことないけど、カニカマは好きだから。

 さっきから家の中に漂う出汁の香りが、僕のわずかな食欲をそそっている。
 それにセンセイが作ってくれたお鍋だもの。
 心して食べなくちゃだよ!

 ああ、センセイ、好き、大好き。
 鍋を見つめるセンセイの横顔に、僕はぼうっと見蕩れていると。

「橘。ヒマなら、食器並べてくれ」
「は、はい」

 うわ。僕、なに、お客様然としてるんだろ。
 センセイばっかり働かせて。恥ずかしいっ。
 食器棚から、お箸やお皿を持って、リビングへ慌てて戻った。
 四人がけテーブルにそれらを並べながら、ふと思ったんだ。
 センセイのマンションは3LDK。
 賃貸じゃなくて、分譲。ローンもぜんぶ払い終わってるって、すごいよね。
 でもきっと、ここは誰かと住むために買ったんだよね。
 だってセンセイ、二十代後半で、結婚適齢期だもん。
 保険室の中尾センセイは元カノ。
 あいつには今カレがいるから、とセンセイは言うけど、元サヤに収まっても、ちっともおかしくない。
 中尾センセイじゃなくても、他の女の人に、広瀬センセイがもてないわけ、ないもん。
 センセイが女の人とデートしたって、それを咎める権利なんて、僕にはないし。

 センセイが僕にかまってくれるのは、きっと在学中だけ。
 卒業しちゃえば、お払い箱。
 そして、センセイはここにきれいな女の人を誘うんだ……。

 ああ、だめ、だめ。

 ふるふると頭を振る。

 せっかくセンセイが「大晦日、うちにおいで」と言ってくれたんだよ。
 泊まりたいってセンセイに過去最大級のわがままを言ったら、「おばあちゃんが許してくれたらいいよ」と条件を出されて。
 決死の覚悟でおばあちゃんに頼んだら、あっさり「いいわよ」と許してくれたのに。

 ――でもね、節度ある交際を心がけなきゃだめよ、あきちゃん。まあ、センセイは大人だからわかってると思うけど、一応釘を刺しておくわ。

 そんな心配、杞憂だよ。おばあちゃん。
 センセイは、僕にそんな変な気、起きやしないんだから。

 僕には触れるだけのキスしか、くれない。




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Posted by麻斗結椛