なんて幸せな、ニューイヤーズ・イブ 3 (最終話)
「おい!」
センセイが慌てている。
ふふ、なんだか、楽しいな。
センセイなんて、もっと困ればいいんだ。
気が大きくなった僕は、勝手におかわりした。
「なにしてる!」
センセイが徳利を取り上げる前に注いで、あっという間に飲んでしまった。
「たちばなー……」
センセイが頭を抱えてる。
「センセー、お酒って、おいしいんだね。僕、もっと飲みたい。おかわり、もう、ないの?」
「おいおい、勘弁してくれよ」
「なんで? センセイが飲めって言ったんじゃないかあ」
「あー……、もう、おちょこ二杯で酔っ払うなよ。酒癖、悪いな、おまえ」
「僕、酔っ払ってません! すっごい気分がいいだけです!」
頭の芯がぼうっとする。熱があるみたいだ。でもちっとも苦しくない。
身体がふわふわ浮かんでいるみたい。
さっきまであんなに落ち込んでいたのが嘘みたいに、今、この状況が楽しくてたまらない。
「それが酔ってる状態なんだっての。あー、とりあえず、水飲ませなくちゃ」
センセイが立ち上がろうとした。
やだ、どこ、行くの?
僕を一人にしないで。
「え! どうした、橘」
気がついたら僕は、センセイの腰あたりにしがみついていた。
「やだー、センセイ、ここにいてー」
「すぐ戻ってくるって」
「センセイ、好きなの。こんな酔っぱらい、もう、きらい?」
ジェットコースターみたいに気持ちが乱高下する。
センセイを好きすぎて、苦しい。
相手にされてないのは、分かってる。
物珍しさからの、高校限定の、恋人ですらない、名前のつけられない関係。
それでもいいから、傍にいさせてもらってるのに。
「橘」
センセイはため息をこぼして、椅子に腰を下ろした。
両手で軽々と僕を抱き上げて、センセイをまたぐよう向かい合わせに僕を座らせ、僕をじっと見つめた。
「きらいになんてならないから、落ち着きなさい」
センセイは両方の二の腕を、大きな手のひらで撫でる。
まるで駄々をこねた子どもを慰めるようだ。
「僕、子どもじゃ、ない」
「ああ。子どもじゃない。でも俺の大事な生徒だ」
生徒。
それって、学校には僕以外にもっとたくさんいるよね。
「……他の子も大事なくせに」
センセイは、基本誰にでも優しい。
僕なんか、ワンオブゼム、だ。
「よく聞け、橘。俺は、ここに、友人すら呼んだことはない」
え?
「俺の言ってること、分かるか?」
今頃になって、急に眠気が襲ってきて、思考がまとまらない。
頼りなく頭を横に振りながら「分かんない」というのが、精一杯だ。
「うちに上げたのはおまえだけだよ。それでも大事にされていないって思うか?」
真剣な眼差しが、僕を射抜く。
嘘は、言っていない。
そう思った。けど。
「センセイ……かっこいい」
「ふっ……何言ってんだ」
僕のとんちんかんな言葉に、センセイが、笑う。
「センセイ、笑った。うれしい」
「おまえがかわいいこと言うからだ」
そう言って、センセイは僕をぎゅうっと抱き締めてくれた。
センセイの胸に顔を埋める。
ずっとこうしていたいよ、センセイ。
「僕……ちょっとは大事?」
「はあ……まだわからないか。まあ、いい。今日はもう寝ろ。ほんと、酒飲ませて悪かった」
「やだあ、センセイと紅白見るんだもん」
「おまえなあ、俺を萌え殺す気か」
センセイを殺したりなんかしないよ。
こんなに大好きなんだよ?
いつか恋の病で死んじゃうのは、僕のほうだ。
いつの間にかお姫様抱っこされてた僕。
背中にふわりと柔らかい感触。
あ。ここ、センセイのベッドだ。
初めて、寝る。うれしい。
センセイの匂い。いい香りだ。
まるでセンセイに包まれているみたい。
きっと今の僕は、最高にうれしくて、にやついているはず。
「幸せそうな顔して」
やっぱり、センセイにも、そう見える?
うん。僕、すごくうれしいんだよ。
「おまえはほんと、華奢だなあ……もうちょっと太ってくれないと、抱き壊しそうで怖いよ」
あれ、服、脱がされてる。
夢現の状態だから、よくわからないけど。
何かが、僕の腕や腹を、優しく撫でる。
暖かくて、気持ちいい。
もっと撫でてほしい……。
「あと一年と少し……俺の我慢との戦いは、続くわけか」
ん? センセイの、独り言、意味がわからないよ。
そして、僕の願いは虚しく、優しいマッサージは終わってしまう。
再び、何かに包まれる。
センセイのパジャマかなあ。うちとは違う洗剤の香りがする。
「さて、食器でも洗ってくるか……どうせ食えない据え膳だし。卒業したら、覚悟しとけよ……聖人」
え? センセイ、僕の名前、呼んでくれた?
うれしい! 夢みたいだ。
それでもいい。
こんな幸せな大晦日、生まれて初めてなんだもん!
和也と聖人。本編では別れましたが、パラレルでは両片思い。
恋人じゃない二人の、ぎりぎりなイチャイチャを書くのが楽しくて、一日で書き上げました。
今年一年、ブログとエブリスタで、拙作にお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
来年こそは、もう少し上手に、感動してもらえるBL小説を書けるようがんばりますので、引き続きお付き合いいただければ、幸いです。
みなさま、良いお年をお過ごしくださいませ(*^_^*)
麻斗結椛
ランキングサイトに参加しています。
クリックしていただけると励みになります。
拍手をいただけると大変嬉しいです。
センセイが慌てている。
ふふ、なんだか、楽しいな。
センセイなんて、もっと困ればいいんだ。
気が大きくなった僕は、勝手におかわりした。
「なにしてる!」
センセイが徳利を取り上げる前に注いで、あっという間に飲んでしまった。
「たちばなー……」
センセイが頭を抱えてる。
「センセー、お酒って、おいしいんだね。僕、もっと飲みたい。おかわり、もう、ないの?」
「おいおい、勘弁してくれよ」
「なんで? センセイが飲めって言ったんじゃないかあ」
「あー……、もう、おちょこ二杯で酔っ払うなよ。酒癖、悪いな、おまえ」
「僕、酔っ払ってません! すっごい気分がいいだけです!」
頭の芯がぼうっとする。熱があるみたいだ。でもちっとも苦しくない。
身体がふわふわ浮かんでいるみたい。
さっきまであんなに落ち込んでいたのが嘘みたいに、今、この状況が楽しくてたまらない。
「それが酔ってる状態なんだっての。あー、とりあえず、水飲ませなくちゃ」
センセイが立ち上がろうとした。
やだ、どこ、行くの?
僕を一人にしないで。
「え! どうした、橘」
気がついたら僕は、センセイの腰あたりにしがみついていた。
「やだー、センセイ、ここにいてー」
「すぐ戻ってくるって」
「センセイ、好きなの。こんな酔っぱらい、もう、きらい?」
ジェットコースターみたいに気持ちが乱高下する。
センセイを好きすぎて、苦しい。
相手にされてないのは、分かってる。
物珍しさからの、高校限定の、恋人ですらない、名前のつけられない関係。
それでもいいから、傍にいさせてもらってるのに。
「橘」
センセイはため息をこぼして、椅子に腰を下ろした。
両手で軽々と僕を抱き上げて、センセイをまたぐよう向かい合わせに僕を座らせ、僕をじっと見つめた。
「きらいになんてならないから、落ち着きなさい」
センセイは両方の二の腕を、大きな手のひらで撫でる。
まるで駄々をこねた子どもを慰めるようだ。
「僕、子どもじゃ、ない」
「ああ。子どもじゃない。でも俺の大事な生徒だ」
生徒。
それって、学校には僕以外にもっとたくさんいるよね。
「……他の子も大事なくせに」
センセイは、基本誰にでも優しい。
僕なんか、ワンオブゼム、だ。
「よく聞け、橘。俺は、ここに、友人すら呼んだことはない」
え?
「俺の言ってること、分かるか?」
今頃になって、急に眠気が襲ってきて、思考がまとまらない。
頼りなく頭を横に振りながら「分かんない」というのが、精一杯だ。
「うちに上げたのはおまえだけだよ。それでも大事にされていないって思うか?」
真剣な眼差しが、僕を射抜く。
嘘は、言っていない。
そう思った。けど。
「センセイ……かっこいい」
「ふっ……何言ってんだ」
僕のとんちんかんな言葉に、センセイが、笑う。
「センセイ、笑った。うれしい」
「おまえがかわいいこと言うからだ」
そう言って、センセイは僕をぎゅうっと抱き締めてくれた。
センセイの胸に顔を埋める。
ずっとこうしていたいよ、センセイ。
「僕……ちょっとは大事?」
「はあ……まだわからないか。まあ、いい。今日はもう寝ろ。ほんと、酒飲ませて悪かった」
「やだあ、センセイと紅白見るんだもん」
「おまえなあ、俺を萌え殺す気か」
センセイを殺したりなんかしないよ。
こんなに大好きなんだよ?
いつか恋の病で死んじゃうのは、僕のほうだ。
いつの間にかお姫様抱っこされてた僕。
背中にふわりと柔らかい感触。
あ。ここ、センセイのベッドだ。
初めて、寝る。うれしい。
センセイの匂い。いい香りだ。
まるでセンセイに包まれているみたい。
きっと今の僕は、最高にうれしくて、にやついているはず。
「幸せそうな顔して」
やっぱり、センセイにも、そう見える?
うん。僕、すごくうれしいんだよ。
「おまえはほんと、華奢だなあ……もうちょっと太ってくれないと、抱き壊しそうで怖いよ」
あれ、服、脱がされてる。
夢現の状態だから、よくわからないけど。
何かが、僕の腕や腹を、優しく撫でる。
暖かくて、気持ちいい。
もっと撫でてほしい……。
「あと一年と少し……俺の我慢との戦いは、続くわけか」
ん? センセイの、独り言、意味がわからないよ。
そして、僕の願いは虚しく、優しいマッサージは終わってしまう。
再び、何かに包まれる。
センセイのパジャマかなあ。うちとは違う洗剤の香りがする。
「さて、食器でも洗ってくるか……どうせ食えない据え膳だし。卒業したら、覚悟しとけよ……聖人」
え? センセイ、僕の名前、呼んでくれた?
うれしい! 夢みたいだ。
それでもいい。
こんな幸せな大晦日、生まれて初めてなんだもん!
和也と聖人。本編では別れましたが、パラレルでは両片思い。
恋人じゃない二人の、ぎりぎりなイチャイチャを書くのが楽しくて、一日で書き上げました。
今年一年、ブログとエブリスタで、拙作にお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
来年こそは、もう少し上手に、感動してもらえるBL小説を書けるようがんばりますので、引き続きお付き合いいただければ、幸いです。
みなさま、良いお年をお過ごしくださいませ(*^_^*)
麻斗結椛
ランキングサイトに参加しています。
クリックしていただけると励みになります。


拍手をいただけると大変嬉しいです。
- 関連記事