Dear my devil 第1話(02)

麻斗結椛

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 今年の春、真桜が勤務していた自動車修理工場が倒産した。
 社長は頑固で厳しい人だったが、中学を卒業したばかりで、全く使い物にならない真桜に手取り足取りで職人技を仕込んでくれた。
 必死に仕事を覚えようとしていた真桜だが、景気悪化に伴う資金繰りに苦しんでいた社長は、苦渋の決断で会社を畳んでしまった。
 入社たった一年で職を失うはめになった真桜は、途方にくれた。
 真桜の複雑な家庭環境を知っている社長は、せめてもの詫びにと、私財から真桜だけに退職金を出してくれた。
 全く役立たずだった真桜は、要りませんと拒んでも社長は頑として引いてくれず、先に根負けしたのは真桜のほうだった。
 だがどんなにカッコつけて拒絶してみても、喉から手が出るほど欲しいのは、一にも二にも金だったから、微々たる金額でも臨時収入は死ぬほどありがたかった。
 なぜ未成年の真桜がこれほど金策に苦しんでいるのか。
 それは篠谷家には扶養してくれる大人がいないからだ。
 とはいえ死別してるわけでもなく、どちらも健康体で健在している。
 母親は十六才で真桜を生んで以来、恋愛体質であるがゆえか、結婚離婚を繰り返し、いつしか家に帰らなくなった。
 父親と呼べる人は、戸籍上では四人の男性がその場所にいたが今は空欄だ。
 長男の真桜を筆頭に、弟三人、妹二人、計六人が真桜の家族。
 十七才の真桜は、経済的にも精神的にも家族を支える大黒柱だ。
 会社が倒産して呆然とした真桜だが、ぼんやりしている暇があったら働かなければと、日払いしてくれる清掃、コンビニ店員、居酒屋のアルバイトを三つ、掛け持ちにすることで生活はなんとか以前と同じレベルを保てている状態だ。
 育児放棄している母親は、時折気まぐれに口座にいくばくかの金を振り込んでくる。
 金を入れてくれるだけでもありがたいことだと、真桜は小学校高学年になった頃には、母親への一切の期待を捨てた。
 母親は帰ってこなくていい。むしろいないほうが家庭内は平和だ。
 真桜が中卒で就職したと同時に、振込が滞り始める。
 真桜の稼ぎをあてにしてのことだろう。
 ムカつきは半端ないが、怒りをぶつけても状況は変わらないのは、経験上痛いほど分かっている。
 要は真桜がなんとかすればいいのだ。
 高校進学はハナから考えていなかった真桜は、兄弟に同じ思いをさせるつもりは毛頭なかった。
 金策に苦労しいろんなことを我慢するのは、自分だけで十分だ。
 兄弟には進学を諦めて欲しくないし、贅沢しない範囲内でのやりたいことを我慢させたくない。

(俺がしっかりしないでどうする! 兄弟を守るのは俺しかいないんだ!)

 くじけそうになる心を、頼る人がいないゆえの反骨心で奮い立たせて生きてきた。
 とはいえ、毎月ぎりぎりの生活。貯金はゼロ。
 早く大人になりたい。そうしたらもっと稼げるのではないだろうか。
 それに一番怖いのは、真桜が働けなくなることだ。
 真桜が稼がなければ、兄弟は途端に露頭に迷ってしまう。
 日々の仕事に忙殺されている間は、綱渡りの生活もなんとか切り抜けられるような勘違いをしていられる。
 だがいつも強気の真桜も、ふと死にたくなるほど絶望する時もあって、そんな、たまたま気持ちがどん底に堕ちていた時だった。
 石倉に街角で声をかけられたのは。



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Posted by麻斗結椛