Dear my devil 第1話(06)

麻斗結椛

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 十七年間、真桜はキスはもちろん、誰かと付き合った経験すらない。
 日々の生活をこなすのに精一杯で誰かを好きになる余裕もなく、中性的な容姿ゆえに女子の恋愛対象にはならなかった一方で、男子から告白されることはあったが、同性からの恋情は真桜の性質上、当然受け入れられなかった。
 そんな奥手の真桜も年頃ゆえ自慰はする。それでも狭い我が家で兄弟の目を盗んでするのが面倒で我慢してやり過ごしているうちに、性的欲求を抱かない性質になっていた。それなのに。

「あれれ。パンツ、濡れてるよ。やらしーね、タロウくん」
「……」

 未知の官能に怯え震える身体を僅かに起こし、股間付近に視線をやると、確かにグレーのボクサーパンツの中心盛り上がり、色濃くシミを作っている。あまりの羞恥に真桜の頬が更にピンクに染まった。

(女の子じゃないのに……どうしてこんな風に……)

 他人に触れられることを知らない若い身体が、愛撫に素直に反応してしまうことに、無垢な真桜は自らの敏感さを恥じた。
 
「男の子だっておっぱいで感じるんだよ。ほんと何も知らないんだね。その反応、可愛いすぎでしょ」

 石倉は真桜の恥じらいをからかい、濡れた部分を指先でくにくにと刺激してくる。
 真桜は他人が自分への性器に触れる感触に、恐怖と驚きでびくんと背中がのけぞった。

「やだ。触るなってば!」

 胸くらいはいい。だが性器を他人に触れられるのは怖い。
 ましてや男だ。とはいえ女性だったらいいのかも分からないのだが。
 真桜は力任せにぐるんとうつぶせになり前面を防御した。

「あらら。そんな恥ずかしがらなくても。今更でしょ」

 今ではこの状況がアダルトビデオの撮影だと分かっている。
 はねのけて逃げるのは簡単だ。
 だがここまで身体を晒しておきながら、積み上げた六万を捨てることはどうしても出来ないと、守銭奴的な思考が真桜に次の行動を迷わせてしまう。

「ひぃ!」 

 尻が急に外気に触れ、真桜は悲鳴を上げた。

「ねえ、ここ、指入れていい?」

 生殖活動には使わない、排泄器官を指でそっと撫でられる。
 男同士の性行為に尻を使うことは、真桜もなんとなく知っていた。
 だが男だったら決してありえない挿入される行為は、愛撫以上に未知で恐怖しか覚えない。

「や、こ、こわい。だ、だめ」と反射的に拒絶するものの「プラス五万だよ」と耳元で囁かれた。悪魔の囁きだ。

(五万って……全部で十一万とか……バイト三つ掛け持ちの何日分だよ……)

 毎日必死に働いている労力を考えたら、男に身体を触られるくらい我慢できる。
 欲に目がくらみ、思わず「……ゆ、指だけなら……」と了承してしまう。

「ほんと? やった。気持ちよくしてあげるから。じゃあさ、太郎くん、自分でお尻ぐっと広げてくれる?」
「……こ、こう?」

 うつ伏せの真桜は、自分で尻たぶを掴んで、横に広げた。
 なんて格好だ。恥ずかしい。けど金のためにひたすら我慢だ。
 石倉がカメラを固定に戻している。
 たぶん両手を使うからだろう。

 ふと真桜は視界が歪むのを感じた。

(あれ、どうしたんだ? ……あ、俺、泣いてるの?)

 ぼろぼろと涙をこぼしていることに気づいた。
 そんな真桜を見て、石倉が楽しそうに話しかけてくる。

「怖いよねえ。お尻に指入れられるの。でもね、きっとこの後君、お尻の気持ちよさが分かるはずだよ。君は男に抱かれる性質の子なんだって、ひと目見て分かったんだ。だから声をかけたんだよ。売れっ子の売り専になれるから、この仕事が終わったらどこかお店紹介してあげるよ。君、お金困ってそうだもんねえ」

 罪悪感のかけらもなく、むしろ感謝しろと言わんばかりに嬉々として、指先を真桜の尻の間に這わせてくる。
 いつの間にか液体を纏っている指先で後孔の入り口をぬるりと撫でられる、言いようのない嫌悪感。
 全然気持ちよくない。
 むしろいつ訪れるか分からない痛みへの恐怖で、涙があふれて止まらない。

(やっぱ怖い……いやだ……どうしよう……)
 
「おい。あんまり泣くと、可愛い顔が不細工になるから、ほどほどにしろって」

 今までへらへらしていた石倉が、乱暴な言葉を吐いたので、真桜は「す、すみません……」と泣き声をこらえながら謝った。
 石倉の機嫌を損ねたら、金がもらえないのではないか。
 真桜のような無知な未成年を、アメとムチでマインドコントロールするのは、赤子の手を撚るより簡単だった。

(これくらい……なんてことない……時給十一万だろ……我慢しなくちゃ……)

 石倉の指が孔の付近で挿入のため力が込められた時だった。
 玄関ドアを乱打する激しい音と、インターホンをめちゃくちゃに鳴らす音が、石倉の手の動きをぴたりと止めた。




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Posted by麻斗結椛