Dear my devil 第2話(08)

麻斗結椛

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「わあ、バスじゃないくるまだ。おじちゃんとまおちゃんとももしか乗ってないね。ひとりじめだね」

 百日が普段利用するのはバスばかりだから、自家用車が珍しいのは無理もない。見慣れない車内にわくわくしているのか、キョロキョロと落ち着かない。

「もも……あちこち触ったらだめだからな」
「はーい」

 ゴミひとつ落ちていない、清潔な車内。
 きっとさっき会ったばかりの金髪の舎弟(と勝手に決めつけている)にきっちり掃除させているに違いない。
 ベタベタ指紋でも残そうものなら、あの男は青筋を立てて怒るに違いない(とまた勝手に決めつけてしまう)。

「家の住所、さっさと教えろ」

 聞き返すと怒られるのは既に学習済みだ。
 真桜は逆らわず素直に自宅の住所を告げた。
 保育園から自宅までは、子どもの足でなおかつ寄り道をしたりすると、平気で三十分オーバーする距離を、車だとものの五分もせず、自宅付近に到着してしまった。
 真桜の家は路地沿いだ。大型高級車は家前に乗り付けられないので、すぐ近くの道に停めてもらった。
 停車後、無言の男が背中越しに差し出してきたのは、一枚の名刺だった。

「あ、ありがとうございます……」と押しいただくように真桜はそれを受け取った。
 印刷された文字を目で辿る。
 そこには社名、名前、住所が簡潔に記されていて。
 真桜がじっと見つめたのは、朝比奈岳、と書かれた名前の部分だった。

「あさひな……」

 たけし? がく? 
 名前の呼び方をこっそり悩んでいると分かったのか、男が「がくだ」とすぐに補足してくれた。
 ここまで二人の会話を黙ってきいていた百日だが「おじちゃんのおなまえ、がくっていうの?」としきりに会話に参加したがり始める。
 当然、朝比奈は百日の質問は無視するので、真桜は百日が気の毒でせめて慰めたくてその頭をそっと撫でて(ごめんな)と心の中で謝った。

「親父の会社のいくつかを請け負っていて、金貸しはそのうちの一つだ」

(お父さんの仕事を手伝ってるんだ。怖そうだけど別に裏稼業ってわけじゃないのかな? それともお父さんもそうで、朝比奈さんは二代目とか……?)

 世間知らずの真桜には朝比奈の背景が全く読めない。
 
「さっきも言ったが人手が欲しいと考えていたところだった。おまえには俺らの補助を任せたいと考えている」
「ご期待に添えるよう、が、がんばります」と勢いで返事をしたものの。 

(ていうか、どうしていいか全然わかんねえ……でも具体的に何するんですか、なんて質問なんて怖くて出来ないしなあ。俺、パソコンとか出来ないのに役に立てるのかな。あ、そうだ。店番ですかってさっき聞いて否定しなかったから、お客さんが来た時に愛想よくお茶出せばいいのか! 居酒屋でも俺、接客態度がいいって人気あったしな!)

 オフィスワークの経験がない真桜には業務内容想像がつかないので、なんとか前向きに捉えようと努力した。



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Posted by麻斗結椛